消費者庁と国民生活センターが徳島で行った試行の結果が8月23日、ようやく明らかになった。河野太郎前消費者相が「こんなネガティブな内容は話すな」と怒り、試行の結果が出せなくなっていた状況からすると、大臣が交代し、試行の結果が大きく変更されることなく公表されたと言える。新オフィス設置につながるようボジティブに整理されてはいるが、消費者庁のどの機能も、国民生活センターの研修も、商品テストも、移転が困難なことは明白になった。政府は、消費者庁、国民生活センター、消費者委員会の移転を直ちに断念すべき。消費者庁等の移転問題の結論を3年後に先送りせず、8月末では決着させることを強く求める。
7月29日、河野太郎元消費者相は、試行結果の整理を待たずに、新オフィスの設置と地方移転の結論先送りを発表した。新オフィスで何をやるか、具体策がいまだに示されていない。移転ありきで先に結論を出し、後付けで整合性を保とうとしているからに他ならない。
消費者庁の2017年度概算要求では、新オフィス設置のための費用として消費者庁4.8億円、国民生活センター2.4億円が盛り込まれるとみられる。
試行にかかった経費はは、消費者庁と国民生活センターを合わせて約3500万円。概算要求は、あくまで要求ベースだが、いわゆる焼け太りを狙うというわけだ。
予算や人員が増やせない消費者行政で、予算・人員が確保でき、河野太郎前大臣も、飯泉嘉門徳島県知事も顔が立つ。政治的、官僚的にはベストの決着と消費者庁幹部はいう。
だが、国民、消費者の目線で消費者政策を考え、他省庁の司令塔機能を果たす消費者庁の結論が果たしてこれでいいのか。これらに使われた税金は、果たして適正な使われ方と言えるのか。やらなくてもいい試行を強行し、徳島県民に過剰な期待をさせたのではないのか。
消費者委員会は同日、新オフィスの進捗状況を定期的に報告することなどを求める意見を出したが、あまりに政治的・官僚的だ。国民目線に立った消費者行政の監視機能は、果たせているとは言い難い。その存在価値が問われる。
そもそも、国民の安全・安心を守るための機関である消費者庁と国民生活センターは、他の省庁以上に真っ先に移転の検討対象からはずれるべきものだ。それが最後まで移転検討対象として残り、さらに3年もこの問題で振り回されるというのは、あまりに消費者行政が軽んじられている。政府は、アベノミクスの両輪として、消費者の安心・安全を守ることを最優先すべきだ。
これらの試行結果を踏まえた政府の結論は、消費者庁と国民生活センターの移転断念であるべき。8月末で移転問題を決着させることを強く求める。
試行の要した経費 新オフィスの概算要求額
消費者庁 消費者庁4.8億円
(7月4日~7月29日) 国民生活センター2.4億円
2761万6000円 (8月24日時点で報道)
国民生活センター
(5月9日~8月8日)
676万9524円
ようやく明らかにされた試行結果
「移転できないこと」が鮮明に
試行の結果は同日、消費者委員会のヒアリングで明らかになった。
消費者庁の国会対応、危機管理、政策立案、執行業務の移転が無理なことに加え、その他の業務でも国会や各省庁、全国の自治体や関係団体との連携が必要なため、移転した場合に効率が低下することが明確にされている。
国民生活センターの研修は、全国の自治体のアンケート調査で、4割の自治体が移転した場合に「参加できなくなる」と回答していた。県外からの参加者が少なく、対象地域が限定され、全国を対象にした研修の実施が困難なことは明白。
商品テストも秘密が保持できる相模原事務所と同様の施設がなければ実施できず、その施設が完備されてもなお、市場調査や事業者への説明、専門家の活用などに課題があることが浮き彫りになっている。
消費者庁
【国会対応】
◇現時点ではテレビ会議でやり取りする前提になっていない。
◇閉会中だが、国会議員説明を代理者が対応、課長が帰京して対応。
◇迅速性や効率性、十分な対応に課題。
<安倍内閣発足から2016年8月3日までの実績>
政務三役答弁1546問、政府参考人答弁1171問、
与野党の部会・調査会・国対等ヒアリング475回、
説明要求534件、面会要求106件
【司令塔・危機管理】
◇現時点では、消費者庁と官邸、各省庁を結ぶテレビ会議システムがない。
◇ 事案ごとに連携相手が異なるため、迅速な関係構築に課題。
・官邸への説明や他省庁主催の会議に課長が出席できず、代理で対応。
・テレビ会議システムを使用した会議、打合せは、消費者庁主催の会議や既に関係構築がなされている関係省庁担当者との打合せ等に限られた。
・テレビ会議は、多人数での意見調整に課題。
◇
司令塔機能・危機管理のための官邸や関係機関との日常的な関係構築が不可能。
・次官連絡会議に出席するため、長官が週1回帰京。
・危機管理に関わる関係省庁職員との懇談会は、消費者庁関係者(長官、担
当課長)在京時に、東京で開催。
◇テレビ会議では、庁内連携にも課題
・きめ細やかな相談ができず、随時の相談や、短時間の検討・方針決定が困難。
・東京の職員の状況が見えず、繁閑の把握や業務の指示が困難。在京時と比べて、課員との意思疎通、作業が迅速に図れなかった。
<2015年1月から12 月 10 日の実績>
官邸への説明 約 70 件、課長級以上の会議を23回 主催 、
他省庁主催の会議に248 回出席 、長官は毎週1回次官連絡会議に出席、
2016年6月からは、子供の安全で関係省庁会議を主催
【企画立案・関係機関との連携】
◇内閣法制局による条文審査、国会議員への説明、党内審査、国会審議等は、現状、そのほとんどが対面。
◇有識者会議の検討に課題。
・委員との個別調整は、東京で対応。
・テレビ会議は、多人数での意見調整に課題。
・会議中や事後の委員へのフォローができなかった。
◇関係機関との日常的な連携、関係構築に課題
・在京機関はじめ、地方の自治体、企業、団体等も、東京での他の用務と合わせて、消費者庁を訪問することを希望。
・消費者団体、経済団体への説明は、帰京して対応。あるいは、代理者が対応。
◇マスコミとの関係構築、丁寧な説明にも課題。
・テレビ会議会見後の記者への補足説明など在京記者へのフォローが困難。
・全国への情報発信力を持つ在京記者の取材の機会は、結果的に限られた。
【執行業務】
◇対象事業者の大半が東京圏にあるため、出張で対応すると効率が低下。
<2015年の実績>
特商法72.7%、景表法100%、消費者安全法88.9%が、関東圏の事業者
◇事業者からの聴取は、テレビ会議では不適切。
◇課長と担当者が離れた環境下では、大量の資料の電子データ化など物証等の情報共有に大きな追加労力が必要。
◇担当ラインを分断すると、きめ細やかな相談できず随時相談や短時間での検討・方針決定が困難。
【事業推進・調査等業務】
◇東京の国会、関係省庁や全国各地の自治体や関係団体等との連携、関係構築 が必要な業務を徳島県から行う場合には、移動の時間・費用の負担が増加し、効率が低下。
◇多くの関係団体等はテレビ会議システムを保有していない上、事前の関係構 築が不十分な場合、テレビ会議では十分な連携が行えない。
←新オフィス創設につなげるため、
「事業推進・調査等業務」を切り出している。
①地方消費者行政のバックアップ
②消費者事故情報の集約・分析・発信
③制度の普及・推進
④消費者教育の普及・推進
⑤消費生活動向調査―などとしている。
このうち、調査分析や、モデル事業などは徳島県での取り組みとして期待されるとしているが、国会や関係省庁、全国自治体や関係団体との連携、関係構築が必要な業務は効率が低下すると指摘している。関係団体の多くがテレビ会議システムを整備しておらず、事前に関係が構築されていないとテレビ会議があっても十分に対応できないことも付記している。
要するに、消費者教育全体やどこかの課を切り出して移転させた場合は
効率が低下すると指摘している。
【専門的人材の確保・育成】
約300人の常勤職員のうち、約40人が弁護士、民間技術者等
約190人の非常勤職員は、企業からの派遣や資格保有者多数
◇ 徳島県では、現時点で弁護士や消費生活相談員等の資格保有者の絶対数が不足。
◇徳島県で、消費者庁職員の人材の育成が可能か。
・地方の現場の実情を把握できる良い機会となりうる。一方で、他省庁職員との勉強会、セミナー等への参加ができなかった。
【アクセスの利便性】
◇徳島県から各地への出張に時間がかかった。
・長崎県(片道7時間)、福島県郡山市(片道5時間 40 分)、新潟県上越市(片道8時間)、石川県金沢市(前泊が必要)
◇徳島阿波おどり空港は、現在、東京(11 往復/日)、福岡(1往復/日)のみ。
◇消費者庁職員の出張・外勤実績は、東京都内が多数を占め、全国各地への出張多い。
<消費者庁職員の出張・外勤実績(2015年)>
6,252 回 (うち東京都内 4,275 回)
徳島に移転した場合、追加移動時間
約 4 万時間
追加交通費は約 3 億 6000 万円
結論
試行を踏まえた結論部分は、
「消費者教育、倫理的消費などに関する学校・大学での取り組みなど、熱心な取り組みが見られたほか、消費者庁の取り組みに協力する強い意思が確認された」として、徳島県に「消費者行政新未来創造オフィス(仮称)」を置くとされている。
試行結果は、この方向に導くよう整理はされている。
7月29日に、河野太郎前消費者相が発言した内容に沿って、
「3年後をめどに同オフィスの成果や課題の改善状況等を踏まえながら、検証・見直しを行う」。
検証・見直しのための課題
・現状では、徳島県から東京や他地域へのアクセスに、時間的、費用的な課題がある。
・国会、官邸、関係省庁を結ぶテレビ会議システムが構築されていない。
・地方自治体・民間団体との間でも、同様にシステムが構築されていない。
※消費者庁に期待される迅速な対応や関係者との調整が重要な業務、関係者との日常的な関係の構築等で課題が示唆された。
移転が困難なことは明白。7月29日に河野前大臣が発言内容に結論付けるよう整理しているが、あまりに無理やり過ぎる。
国民生活センター
【研修】
受講者の6割が県内
1講座当たり県外参加者15.8人
◇受講者数‥計 223 人。うち128人、57%が徳島県内。
◇1講座当たりの参加者‥定員72人に対し、37.1人。
県外参加者は15.8人。
◇参加地域‥関西、中国・四国が中心。
交通の利便性に課題
◇徳島阿波おどり空港 羽田間11便、福岡1便。
◇空港、高速バス停、駅から路線バスの本数少ない。
◇最寄りバス停から徒歩10分、最寄り駅から徒歩15分。
◇研修日の前日泊(18人)や後日泊(5人)が必要になる。
移転すると「参加できない」4割
<全国の自治体アンケート調査>
◇移転すると「参加できない」39%
「参加回数が減る」27%
◇移転した場合、「負担重くなる」75%
◇鳴門研修試行には「派遣しない」88%
◇徳島県の特色を活かした研修
「期待する」4%、「やや期待する」8%
全国の相談員と交流にも課題
◇受講者に地域的偏りがあり、全国の消費生活相談員等と交流できない。
◇近隣で開催されるイベントで宿泊施設の確保できず、研修時期を変更した。
◇徳島県内からの講師確保が難しいこともあった。
結論
全国の研修施設として移転が困難なことは明らかだが、
結論は、関西、中国、四国の参加者の中には研修へのアクセス向上が見られたとして
「主として関西、中国、四国地域の対象者を想定した研修を継続する」としている。
あまりに無理やり。関西で一カ所研修を実施する施設を徳島におく必要性は何ら示されていない。
【商品テスト】
必要な設備・機器ない
◇事故の再現や原因究明に必要な以下の設備や機器がなかった。
・発火や爆発を伴う試験ができる難燃性テスト室。
・浴室を想定した給排水が可能な広い恒温恒湿室。
・商品内部の腐食状態を調べる工業用内視鏡。
秘密の保持に問題
◇事業者が自由に出入りでき、秘密保持に問題があった。
◇自前の設備や機器でないため、問題があった。
・必要な加工ができなかった。
・高い清浄度が確保できず、信頼性のある結果が得られなかった。
・1週間前に機器・設備の使用を要請する必要があった。
◇機器・設備が複数施設に分散し、効率が低下。
市場調査でも課題
◇入浴用いすの市場調査結果
・鳴門合同庁舎と徳島県立工業技術センター(徳島市)半径10キロ圏内で、
店頭で構造を確認できたのは10商品、
・相模原事務所半径10キロ圏内では26商品。
徳島では「出席困難」91%
<分析・評価委員アンケート調査結果>
◇34人の委員に調査。徳島で開催した場合、「参加できない」26%、「出席が困難になる」65%。
事業者の来訪7社中3社
◇事業者への説明のため7社に連絡し、参加したのは3社。全社がアクセスの問題を指摘。
結論
試行の結果、商品テストの移転は困難なことが明らかだ。が、結論では、①入浴用いすのテストで、使用中のいすを徳島県の協力で迅速に収集できた②県内の病院が医療機関ネットワークに参画している③新技術に関する機器の購入・社会実験に積極的-であることを理由に、「相模原施設ではできなかった先駆的な商品テストを実施し、全国の自治体の商品テスト機能の向上を図っていく可能性が示唆された」とまとめている。
徳島新オフィスに、「国民生活センターも参加して、研修や先駆的な商品テストを行い、3年後をメドに検証・見直しを行う」と結論づけている。
商品テストも同様の施設があってもなお移転が困難なことは明白だが、結論があまりに無理やりすぎる。
7月29日に河野大臣が発言した方針に無理やり合わせて整理しているためだ。
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これらを踏まえた消費者委員会の意見
新オフィスの進捗状況報告を
消費者委員会が意見
消費者委員会は8月23日、徳島オフィスの進捗状況を定期的に報告することなどを求める意見を出した。消費者庁の機能維持、消費者行政の進化等の観点から、必要に応じ意見を述べるとし、以下を求めている。
①
これまでの消費者行政になかった新しい取り組みに挑戦すること
・徳島オフィスを活用してえるべき成果について一定の目標を設定し、実効性の確保に努めるべき
②
進捗状況は、定期的に委員会に報告すること
③
徳島オフィスの成果について丁寧な検証を行うこと
あまりに政治的で、官僚的な意見だ。
独立して、国民目線で政策を監視する機能を果たしているとは言い難い。
これでは、消費者庁の中の組織で十分だ。
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