2015年12月20日日曜日

「消費者庁徳島移転問題」で見えた、あまりに知られていない「消費者庁の役割」

消費者庁の徳島県への移転問題が急浮上してきた。河野太郎消費者相が徳島県神山町で1週間勤務のお試しをすると発言したためだ。これに対し、消費者庁創設にかかわってきた日本弁護士連合会や消費者団体は、「本来機能の低下は本末転倒」「メリットよりデメリットの方が大きい」「順番が逆、まず産業育成省庁から」と強く反対している。ではなぜ、反対しているのか。それを理解するには、消費者庁がなぜ創設され、どんな役割を担っているかを正しく知る必要がある。残念ながら、反対の理由を正しく伝えているマスコミがあまりに少ない。

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消費者庁の徳島移転で 消費者行政後退を懸念

 

 消費者庁への徳島県への移転問題が急浮上してきた。徳島県が消費者庁と国民生活センターの誘致を提案している問題で、河野太郎消費者相が12月14日、徳島県を視察し、神山町に消費者庁長官に1週間行ってもらい実証実験を行うと突然発言したためだ。

徳島県神山町で1週間勤務を試行 河野消費者相消費者庁職員寝耳に水、消費者庁長官も知らなかった

 ただし、実はこの話、消費者庁職員は寝耳に水。幹部も事前にこの話を聞いていなかった。16日の消費者庁長官会見では、長官も聞いていなかったことが明らかになった。

 河野大臣は移転に前向きで、消費者庁の中でも「徳島に行くためにどんな課題があって、どうすれば解決できるか検討しろ」と指示し続けている。河野大臣は「全国どこにでも消費者と事業者はいる。消費者庁はどこにいなければならないということが一番ない庁」と発言。職員が異論を唱えることなど、とてもできない状況だ。

消費者庁創設に尽力した日弁連、消費者団体は、一斉に反発

「消費者には不利益」「本来機能の低下は本末転倒」「デメリットの方が大きい」「順序が逆、産業育成省庁から」「煙たい消費者庁の移転は最後」「政府の検討手法に疑問」

 

 これに対し、消費者庁創設にかかわってきた日本弁護士連合会や消費者団体は一斉に反発。断固阻止すると強硬に反対している。消費者庁の司令塔機能、立法機能、執行機能が低下する。消費者行政全体のデメリットの方が大きい、消費者に不利益になる、本来機能の低下は本末転倒、と指摘している。

 ではなぜ、反対しているのか。それを理解するには、消費者庁がなぜ創設され、どんな役割を担っているかを正しく知る必要がある。残念ながら、反対の理由を正しく伝えているマスコミがあまりに少ない。

 日弁連も消費者団体も、東京の一極集中の解消には賛成している。順序が逆、まず、産業育成省庁から、煙たい消費者庁の移転は最後 と訴えている。

 まずは、消費者庁はなぜ創設され、どんな機能を持っているかを知ってほしい。そして、日弁連や消費者団体が指摘する懸念は払しょくできるのか、消費者行政全体にとって、莫大なコストをかけて移転するさまざまなデメリットを上回るメリットがあるのかを、真剣に考えてみてほしい。

<経緯>政府が進める「地方創生」の一環として、地方自治体から政府機関の誘致を公募。
庁では「観光庁」「気象庁」「消費者庁」「中小企業庁」「文化庁」「特許庁」の6つの招致に手が挙がっている。
 このうち、長官が次官等連絡会議メンバーであるのは消費者庁のみ。各省と横並びの扱いを受ける政府機関は、消費者庁だけという状況がある
 当初の誘致対象は、消費者庁と国民生活センターだったが、12月1日時点で消費者委員会も追加された。消費者行政が一体で行われていることを知り、拡大したと徳島県は説明している。

消費者庁は

各省消費者行政の「司令塔」


消費者庁は、福田康夫元首相が一丁目一番地の政策として位置付け
 
「生産者・供給者の立場から作られた行政を国民本位のものに改める
『行政のパラダイム(価値規範)の転換』を図り、
各省庁縦割りの消費者行政を統一的・一元的に推進するため」(←消費者基本計画から)

に、09年に創設された。政府の消費者行政全体の司令塔機能を持つ。

中国ギョーザ事件教訓に

緊急対応機能持つ


消費者庁創設の契機になった事件の一つに、中国産冷凍ギョーザへの毒物混入事件がある。このため、「消費者の安全・安心を確保するための緊急対応も、司令塔機能の重要部分」と、第3期消費者委員会で委員長代理を務めた石戸谷豊弁護士は、消費者庁創設の原点を指摘する。
09年通常国会で、消費者庁創設を巡る審議は衆参合わせて約90時間に及んだが、そのほとんどを傍聴してきた(私もそうだが・・)。

当時の野田聖子・消費者行政担当相や松山健士消費者行政一元化準備室長は、「仮に中国ギョーザ事件と同様な問題が発生した場合、政府一体となった迅速な対応に当たり、中心的役割を果たす」と答弁。消費者庁担当大臣の指示のもとで「緊急対策本部を設置して、関係各省庁に行政指導など迅速な対処を促す」と説明していた。

実際に、アクリフーズの冷凍食品に農薬マラチオンが混入されたときには、「消費者安全情報統括官会議」を開催して、対応策を検討した。

ホテルやレストランのメニュー偽装問題が相次いだ問題では、「食品表示等問題関係府省庁等会議」を開催し、対応策を決定してきた。
デパートは経済産業省、ホテルは国土交通省、旅館は厚生労働省、レストランは農林水産省と、まさに縦割りの実態があることが浮き彫りになった。
防災や鳥インフル対策で政府の緊急会議がある場合は、駆けつけなければならない。

「緊急対応に当たる消費者庁は、官邸・担当大臣の下で、司令塔として各省と連携して迅速に対応しなければならない。消費者庁はどこにあってもいいわけではない。中国ギョーザ事件も、アクリフーズの冷凍食品への農薬混入事件も年末に起きている。政府全体で迅速に対応しないと犠牲者が拡大する」と、石戸谷氏は、憤慨する。

政府機関の移転を検討している有識者会議は、2回目の会議で「官邸と一体となって緊急対応を行う政府の危機管理業務を担う機関」「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関」などは、今後、精査する対象としない方針を示している。
石戸谷氏は、「そもそも、消費者庁は、移転の検討対象に該当しない。まさに、官邸と一体となって緊急対応を行う政府の危機管理業務を担う機関に該当する」と指摘している。

中央省庁と日常的に連携

消費者基本計画作り監視

「中央省庁と日常的に一体として業務を行う機関であることも、消費者基本計画を考えれば明白」とも、石戸谷氏は指摘する。
消費者行政全体の司令塔として5カ年の消費者基本計画を策定し、政府が取り組むべき各省の消費者政策を盛り込んでその実施を促している。
消費者委員会が、消費者基本計画に沿った政策を進めているか、監視・検証・評価を行うほか、各省庁が対応すべき点について建議・提言等を行っている。

今年の通常国会で成立した改正電気通信事業法、改正金融商品取引法は、消費者委員会の提言に対応したものだ。
建議や提言を行う場合には、各省と調整や交渉が繰り返されている。消費者庁の司令塔機能や消費者委員会の監視機能は、各省と密接な連携下で業務を行っているからこそ、可能なのである。

消費者庁は各省に措置要求が出せる
法律のすき間には自ら対応

司令塔機能を発揮するために消費者庁が持っている権限に「措置要求」がある。
消費者被害の発生や拡大防止のため、各省が持つ法律の権限を行使する必要がある場合に、速やかな措置の実施を求めることができる。
どの法律もないすき間事案については、事業者に直接勧告や命令を行い、製品事故の場合は回収命令などを出すこともできる。

TPP対策で原料原産地表示拡大
農水省、多くの関係業界団体との調整必須

消費者庁はこれから、TPP対策の1つとして、原料原産地表示の拡大に取り組むことになっている。農林水産省と一体となって、さまざまな関係業界団体と綿密な調整を重ねる必要がある。国内の生産者は従来から表示拡大を求めてきたが、業界の利害が直接影響するためなかなか進まなかった現実がある。
折衝はギリギリの調整を迫られるものと見られる。

「政府関係機関移転に関する有識者会議」のヒアリングで、徳島県はテレビ会議など高度情報通信ネットワークの活用で、距離的障壁を克服できると説明している。

しかし、「テレビ会議で意見を述べたり、聞いたりすることはできるが、場の空気を感じることはできない。交渉ごとには不安が残る」と話すのは、橋本智子・北海道消費者協会理事長。8月末まで消費者委員会委員を務め、何度か、テレビ会議で消費者委員会本会議に参加した。
交渉やギリギリの折衝がテレビ会議では困難だと、多くの人が指摘している。

立法機能にも陰り、

消費者庁のみテレビ会議?

4月から景品表示法に課徴金制度が導入される。しかし、この法律が成立するまでには紆余曲折があった。

この法案を国会に提出する前に、経済産業省が消費者庁の法案の問題点を列挙する独自の資料を作成し、国会議員に説明して回っていたことがあった。

他の省庁は今と同様に国会のそばにいて直接議員に要請し、その一方で消費者庁のみが徳島県でテレビ会議で対応していたのでは、これらの情報を知ることもなく、手をこまねいているしかない。法案提出で了承を得なければならない自民党消費者問題調査会に、反対する議員ばかりがやってくることになりかねない。

消費者庁は創設後7本の法律を成立させたが、その多くで事業者側と消費者側の利害が相反する。

現在見直しが行われている消費者契約法は、広告規制をはじめ多くの検討課題が見送られた。

特定商取引法では、訪問販売に来てほしくないと事前に拒否をしている人への飛び込み勧誘規制をめぐり、大きく意見が対立。この議論があったことすら、報告書に盛り込めるかどうか分からない状況だ。

ただでさえ、事業者側に押し切られ、完敗状態に近い検討課題がいくつもある。結局、広告規制は、特商法でも通信販売に限定した虚偽広告による契約取り消し権すら導入することができなかった。

日本の消費者は、インターネットのうその広告でだまされて契約しても、契約を取り消すことはできないままだ(裁判では勝訴している例あり)。日本の消費者は消費者庁に何を期待するのか。このような機能が低下して喜ぶのは悪質な事業者に他ならない。

事業者団体への説明や根回し、ギリギリの調整が今でさえ十分とは言えない。徳島に移転して、どうやってこれらギリギリの折衝で勝ち抜けることができるのか。

悪質業者の取り締まり

虚偽誇大広告の取り締まりにも懸念


消費者庁取引対策課は、特定商取引法に基づいて、訪問販売や電話勧誘販売などで悪質事業者に業務停止命令を出している。
消費者庁表示対策課は、景品表示法に基づいて、うそつき表示や誇大表示に措置命令を出している。4月からは課徴金も導入される。
これらを行うためには、綿密な消費者からの聞き取りや事業者への立入調査が必要で、その多くは東京だ。そのたびに徳島から出てくるのかという問題も出てくる。

消費者庁職員312人のうち、プロパー約30人
非常勤職員約200人
また、消費者庁の職員は312人。このうち、消費者庁自前の職員はわずか30人しかいない。約200人は他省庁からきてもらっている。このほかに、非常勤職員が約200人いる。
徳島に移転した場合、他の省庁から職員を出してもらえるのか。非常勤職員として活躍している民間企業の人材や弁護士などを確保できるのかという問題もある。

国民生活センター

全国の相談員からの相談に対応


「国民生活センターは全国の消費生活センターや相談窓口へ支援機能が非常に重要だが、このセンターオブセンターの機能が後退することが最も心配される」と話すのは、全国消費生活相談員協会の吉川萬里子理事長。
国民生活センターは消費者からの相談対応のほか、全国の相談員から寄せられる質問や相談に応じる経由相談を行っている。これらの相談は、豊富な経験と高いスキルが求められ、経験年数5年以上の相談員が対応している。土日祝日相談も経験重視で採用されている。
皆、非常勤職員だ。

国民生活センター
経験豊富な相談員は非常勤職員

国民生活センターの職員数は121人、ほかに非常勤職員が129人いる。
非常勤職員のうち、109人が、相談員の有資格者だ。このうち32人が相談員、35人が土日祝日対応の相談員として勤務している。
非常勤職員のほとんどは女性で、移転した場合の雇用への不安が出始めている。

ADR、苦情解決、情報発信

テレビ会議では懸念大きい


消費者の苦情相談を解決するためのあっせん交渉では、消費者と主張が対立する事業者を呼んで、直接交渉している。しかし、その多くは本社が東京にある。
果たしてこれらの交渉が、テレビ会議で可能なのか。事前に事業者にテレビ会議システムを設置してもらうこと自体は不可能に近い。
国民生活センターのあっせん力が低下すれば、全国の相談員への助言にも影響してくる。

あっせんが不調に終わっても、消費者被害は額が少額で裁判を起こす消費者はほとんどいない。これらを解決するためのADR(裁判外紛争解決)も行われている。
年間約200件。消費者と事業者からそれぞれ個別に話をし、専門家が解決案を提示している。消費者との交渉のテーブルに着くかどうかは、事業者の任意だ。事業者の本社は東京が6割を占めているという。

情報発信の面でも、マスコミが多い東京の方がメリットは大きい。葬儀費用でトラブルが発生している問題を公表したその日に、テレビ局から出演依頼があり、夜の番組で職員がテレビを通して直接トラブルの状況を説明している。
苦情相談解決や、被害の未然防止・拡大防止のための商品テストも実施している。
現物を見せ、対面で説明した方が効果的だ。

消費者行政の中核的実施機関

消費者の苦情相談情報を収集・分析


国民生活センターは、消費者行政の中核的実施機関と位置付けられている(消費者基本法)。

同センターが管理するPIOーNET(パイオネット、全国消費生活情報ネットワークシステム)には、全国の消費生活センターや相談窓口に寄せられた消費者の苦情相談情報が集約されている。
これらの分析が、各省庁の持つ制度や法律改正に重要な役割を果たしている。

最近では、電気通信事業法、割賦販売法、消費者契約法、特定商取引法などを見直す検討会で、委員やオブザーバーとして参加し、大きな役割を果たしている。

消費者庁と一体として業務を行っている。もし、国民生活センターだけが徳島に移転するということになると、この点で大きな問題が生じる。

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徳島県、消費者行政専管課なし有資格相談員24人、市町村の相談員配置率54

徳島県は、県が直接「鳴門わかめ認証制度」を創設し、全国初の食品表示適正化条例を制定するなど食品安全分野の取り組みは進んでいる。
消費者大学校・大学院を設置し、地域の消費者リーダーの養成などにも熱心に取り組んでいる。
消費生活コーディネーター制度を創設。消費者教育実践校を指定し、エシカル消費や体系的な消費者教育に取り組んでいる。
ただし、消費者行政のみを担当する専管課はない。消費者行政職員の数も、消費者行政ばかりをやっている専任職員は全県下で14人しかいない。兼務職員も47人と多くない。い。

相談員は全県下に43人しかおらず、資格保有者はわずか24人に過ぎない。
市町村の相談員の配置率は54%と全国平均の74%を大きく下回っている。
相談員の有資格率も56%と全国平均の79%を大きく下回っている。

今後、養成するにしても、人材が確保できるのか。何より重要な経験年数をどうするのか。悪質な事業者と直接あっせん交渉を積み重ねることでスキルが上がると言われている。スキルアップの環境があるのか。今の知見が維持・向上できるのか懸念が大きい。

全国消費生活相談員協会が反対の署名運動
「消費者行政全体の弱体化懸念」
 行政で消費生活相談に応じる相談員らが組織する全国消費生活相談員協会は、全国で反対の署名運動を開始した。
「東京の一極集中の是正に反対するわけではないが、今後の消費者のことを考えると消費者庁、国民生活センター、消費者委員会の徳島移転には反対せざるを得ない。全国の消費者行政を弱体化させたくないという一心で署名運動に踏み切った」と吉川萬里子理事長。

「地方移転が消費者行政全体に及ぼす不利益は、徳島県の利益を超えると思われる」と訴えている。

政府の検討手法に疑問の声
消費者行政の専門家いない

確かに、地方創生は重要な課題だ。東京への一極集中を是正する必要があることは、だれもが認めている。

しかし、政府が真剣に計画的に地方移転を進めるにふさわしい手法なのかという疑問の声も出ている。

本気で取り組むのであれば、地方に移転によるメリットが見込める機能は何か、全省庁横並びで検討し、まずは、移転の波及効果が大きい産業育成省庁から検討を進めるべきではないのか。
福田内閣の際の「消費者行政推進会議」に相当する会議を官邸に設置して、専門家や消費者問題の利害関係者を加えて議論するべき課題で、地方創生の専門家だけからなる有識者会議で決めるべき問題ではない。
そんな意見も聞かれた。 

消費者庁や国民生活センターの職員や家族の一部が移住し、非常勤職員の雇用分を新たに徳島県で確保できるという徳島県のメリットのほかに、全国の消費者行政、他県の消費者行政にとって、どんなメリットがあるのか。

徳島県は、消費者庁や国民生活センターのメリットとして
<先駆的な施策推進を図るための実証フィールドの確保>を掲げ

 〇日本型エシカル消費の定着に向けたモデル実証
〇体型的な消費者教育の強化
〇高齢者等見守りモデルを構築
〇食品表示適正対策の強化

を挙げている。

しかし、果たしてこれは消費者庁が徳島に移転しなければできないことなのか。これこそ「高度情報通信ネットワークの活用で、距離的障壁を克服」し、消費者庁と連携して徳島県が進めることはできないのか。

消費者行政全体のデメリットを上回るメリットを示すことができるのかが問われている。

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2015年9月30日水曜日

訪販トラブル、1位は新聞。報道されない実態(特定商取引法見直し②)

新聞の訪販トラブル 主な相談事例

◇判断力が低下した90歳代男性に100歳を超える6年間の契約をさせ、解約を申し出ると景品の掃除機代約6万円を請求
(154月 近畿 90代男性)
◇認知症70歳代女性に5年間契約、解約申し出ると米20キログラム、洗剤セット3セットの景品返還請求
(155月 近畿 70代女性)
80歳代女性宅を新聞勧誘員が8カ月間に6回訪問、そのたびに半年から1年の新聞購読を8回、計6年分を契約
(154月 南関東80歳代女性)
◇断ったが「小学校に上がる子どもがいる」と無理やり契約書を書かされ、恐くなり契約
(153月 南関東 90歳代女性)
3カ月だけとしつこく迫られ契約したが、販売店は3年契約だと言い張っている。2紙の新聞代の負担が重い
(155月 南関東 80歳代女性)
◇何度も断ったが、2年先2年間の購読を勝手に契約書に記入し、控えを置いて行った
(155月 近畿 80歳男性)
◇認知症気味の父に契約させないように念を押していたが、2年後から2年間の契約をまたさせていた
 (144月 近畿 80歳代男性)
◇過去の購読のお礼だと玄関を開けさせ、景品を置いて契約書を書けと言い張る
(156月、九州北部、40歳代女性)


新聞の苦情相談件数の推移
新聞の相談全体    うち訪問販売  60歳以上の相談割合と相談者の平均年齢
05年度 12080件     10345件        35.6%    51
06年度 11637件     9758件        37%     52.1
07年度 11538件     9767件        41%     53.7
08年度 11379件     9591件        43.5%    55.2
09年度 12333件     10427件        45.8%     56.6
10年度 12640件     10790件        49.1%     58.5
11年度 12620件    10702件        52.4%     59.9
12年度 11766件     9949件        55.5%     61.7
13年度 12200件     10257件        57.9%    62.7
14年度 11907件     10048件        60.6%    64.3
                               (15618日時点で取材)


訪販トラブル1位 いまだ「新聞」


 訪問販売のトラブルの1位は、14年度も新聞だった。

 商品別では10年連続1位だ。
 苦情相談件数は1万件を超え、相談者の平均年齢も64歳を超えた。
 
 いまだに90歳代の高齢者に100歳を超える6年間もの長期契約をさせ、
 解約を求めると景品の掃除機代を請求するなどの悪質な勧誘が行われている。

日本新聞協会の認識
相談現場とかい離
 
  610日、特定商取引法を見直している消費者委員会特商法専門調査会のヒアリングで、

 日本新聞協会理事の山口寿一・読売新聞東京本社社長は、
「苦情に対し誠実に対応していて相当大きな様変わりがある」と発言。

 同協会販売委員会委員長の寺島則夫・毎日新聞東京本社販売局長も、
「新聞セールスインフォーメーションセンターへの営業マンの苦情はこの5年間で半減し、  新聞販売のイメージは様変わりしている」
「ガイドラインで業界としてしっかり対応している」と述べている。

しかし、これらの認識は、相談現場の受け止めとはかい離がある。

増田悦子委員(全国消費生活相談員協会専務理事)は「ガイドラインを示したが、目に見え   た効果がない。他社との内容の差で勝負すべきではないのか」と反論。

国民生活センターの丹野美絵子理事は、「ガイドライン制定後も相談件数は減っていな   い。契約期間が短く、景品の額も少なくなったが、未だに長期契約や解約申し出時の景   品返還請求は行われている。契約者が死亡したり入院した場合でも、家族がいる場合は   解約を拒否するケースが多数ある」。「自宅が知られているから怖いため契約した」と   いう声があると報告している。

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 日本新聞協会のガイドライン「守られていない」
 相談員の生の声にどう応えるのか

「テレビや布団、掃除機などの景品が、洗剤や米、カタログに変わっただけで、ガイドラインはほとんど守られていない」

「契約時に考慮されているとは思えず、契約者本人が申し出ても対応されない。センターが販売店とのあっせん交渉でガイドラインの存在を指摘すると配慮される程度。機能しているとは言えない」

「認知症の場合は解約に応じるが、それ以外は相変わらず契約を盾に強気。認知症でも診断がないと争いになることがある」

「勧誘員が辞めたので当時の事は分からない。マージンも返らないので簡単には解約できないと言われた」

「景品で誘って、数カ月交代で取ってもらう勧誘自体がおかしい」

「そもそも長期購読者を大事にすべき」

「日本新聞協会幹部が分かっていないとしたら、そのこと自体が問題。販売店が別会社で強制力があるのか」

「ヒアリング内容と相談現場の実態が全く異なる。特に高齢者への不招請勧誘はすさまじい」

「相談件数をわずかと判断した時点で、改善する気はないように受け止められる」
(日本新聞協会の提出文書で、新聞販売所は全国に約18000件あり、1販売所当たり1年間で0~1件と非常にわずかな相談件数になるとした点への意見)

20数年相談員をしてきたが、昔も今も新聞はずっと苦情相談件数が上位にあることをしっかり認識してほしい」

「トラブルのほとんどは全国紙。景品で誘って3紙交代で取ってもらうことにプライドはないのか。乗り換えを勧めるのは業界にとってもよくない」

「紙面の内容で営業し、長期顧客を大切にすべき」

「字が読みにくくなった高齢者がいつやめてもいいではないか。期限の定めのない契約で何が不都合なのか」

「試売紙を入れて連絡があった人に取ってもらう勧誘方法でなぜだめなのか」

「日本人は面と向かってはっきり断りにくい。考えておくというのは断っているということではないのか」

 これら相談員の生の声に、どう応えるのか。10年以上苦情相談件数が減っていない現実に、まずは真摯に向き合い、自ら襟を正すべきではないのか。


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国民生活センターが138月に公表
日本新聞協会に改善要望

国民生活センターは13年8月、「12年先まで契約させ、解約を求めると景品でもらったテレビを買って返せと言われた」などの悪質な勧誘事例を公表。

日本新聞協会に対し
 高齢者の契約や長期契約、一定期間先から契約させる先付け契約の基準作成
 契約者が解約を望んだ場合(契約者の入院、死亡、失業、介護などの家庭の事情、加齢にともなう視力の衰えなどの場合)は、解約に応じるようルールを作ることを要望した。

この発表も、新聞各紙はほとんど報道していない。

日本新聞協会は同年11月、解約に応じる場合を整理したガイドラインを作成

 ガイドラインには、認知症など判断力が不足した状態で契約した場合は直ちに解約に応じること、新聞公正競争規約の上限(6カ月の購読料×8%、月額3925円の場合は1884)を超える景品を提供した場合は、返還請求してはならないことなどが盛り込まれている。
ただし、高齢者契約、長期契約、先付け契約の記述は見られない。 


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以下事例の詳細

90代高齢者に長期契約
解約に景品の掃除機代請求
 今年1月、近畿地方の90歳代の男性に、7月から6年間もの新聞購読を契約していたことが分かった。契約期間は100歳を超える。4月に息子が契約書の控えを見つけた。1人暮らしで病気を患い判断力が低下し、100歳を超える契約をしたことを本人は覚えていない。息子が販売店に解約を申し出たところ、「景品の掃除機は6万円ほどしたので6万円支払わなければ解約できない」と言われたという。
 4月には、同じく近畿地方の認知症の70歳代女性が5年間の契約をさせられている。認知症の診断を受けており、息子が解約を申し出たところ、渡した景品を返せと言われた。景品は、米20㎏、洗剤3セット。消費してしまったがどうしたらよいかという相談だ。

8か月間に契約書8
半年、1年契約で6年分
1枚の契約書の契約期間は1年以内だが、短期間の複数回契約で6年分の契約させている手口も出ている。
南関東地方の80歳代女性は、判断力が低下し認知症気味だ。新聞勧誘員が14年度の8か月間に6回訪問。そのたびに半年間、1年間の新聞購読を8回契約させていた。契約期間は、154月から20213月末までの6年間に及ぶ。

高齢者に無理やり契約
2紙配達で重い金銭負担
高齢者がしつこく勧誘されて、仕方なく契約し、余計な金銭負担を強いられている。
 2世帯住宅に住んでいる南関東地方の90歳代の女性は、昼間1人でいるときに新聞を執ように勧誘された。他紙を購読しているからと断わると「学校に上がる子どもがいる。契約してくれなかったらお金がもらえず困る」と言われ、さらに断っても無理やり契約書を書かされたという。販売店からの確認の電話にも「断ると怖い目に遭うのではないか」と思い、返事をしてしまった。二重配達になることを息子に叱られ、消費生活センターに電話している。
 南関東地方の80歳代女性は、3カ月だけとしつこく迫られ仕方なく契約したが、3カ月経っても新聞が配達される。2紙配達に妹が気づき、問い合わせたところ、販売店は、3年契約だと言い張っているという。洗剤を受け取ったものの、2紙の新聞代は負担が重いと訴えている。
 155月には、近畿地方の80歳代の男性から、「何度も断ったにもかかわらず販売員が勝手に2年先から2年間の朝刊の購読を契約書に記入し、控えを置いて行った」という相談も寄せられている。

購読お礼と玄関開けさせ
景品置いて 契約迫る
6月になって、九州北部からは、購読のお礼と玄関を開けさせ、執ように契約を迫ったという相談が入った。40歳代の主婦は、2年前まで購読していた販売店からあいさつにきたというので玄関を開けた。景品の洗剤やビールが余っているので配っていると言われたが、「そんなことをされても新聞は取らない」と断った。それでも今までのお礼なので重ねて言うので、「お礼なら」と応じると景品を玄関に置き、契約書を書けと言い張ったという。

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クーリング・オフは苦情

日本新聞協会が、1万件を超える苦情相談件数について、苦情の中身が明確でないとして「どう判断したものか苦慮している」(寺島販売委員会委員長)と述べた点にも、相談現場から疑問の声が上がっている。
同協会は、提出文書で「クーリング・オフ通知書の書き方を知りたい」といった事例は問い合わせに分類されるべきと主張。新聞販売所は全国に約18000件あり、1販売所当たり1年間で0~1件と非常にわずかな相談件数になるなどと分析している。
寄せられた相談は、現場の相談員が「苦情」か「問い合わせ」か判断して分類している。クーリング・オフについても、問題のある勧誘が行われたと客観的に考えられる場合は苦情とするルールだ。このため、クーリング・オフが一定数あれば、問題がある事業者であることが推定できると相談員は説明する。