2022年5月1日日曜日

消費者保護には程遠い「デジタルプラットフォーム消費者保護法」2022年5月1日施行

 2022年5月1日、「取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護に関する法律」が施行された。

消費者庁は略称を「取引DPF消費者保護法」としているが

その内容は消費者保護には、程遠い。

アマゾンや楽天市場、ヤフーショッピングなど、インターネット上で事業者と消費者間の取引の「場」を提供している、契約機能がある取引デジタルプラットフォーム提供者

を規制するための法律を目指していたが、以下の3つの努力義務しか規定されていない。

①消費者が出店者(販売事業者)と円滑に連絡できるようにする措置

②表示に関する苦情を受けたら調査等をする措置

③必要に応じ出店者の身元を確認する措置-の3つ。

講じた措置の開示も努力義務だ。

自民党に提出した骨子案では、義務とし、措置違反には勧告・公表、開示違反には勧告・命令・公表とする方針が示されたが、実現しなかった。

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背景には、

アマゾンで偽ブランド品を販売した事業者を、消費者庁が行政処分しようとしたが消費者庁が調べても販売事業者にたどり着けず、公示送達(処分書を違反事業者に手渡さず、消費者庁の掲示板に処分することを掲示)で行政処分を行った(2020年4月7日公表)。アマゾンの特定商取引法に基づく表示には、居住実態のない住所や、使用されていない電話番号、関係ない人の住所や電話番号が記載されていた。

アマゾンで購入したモバイルバッテリーが発火し、家が全焼したが、販売業者の返信が途絶えがちに。アマゾンに売主の連絡先の開示を求めるも拒否。商品代金の返金と少額の和解金は支払われるも、損害の大部分は賠償されないまま。

フリマサイトで、健康食品エクエルの模倣品を販売する複数の出品者が確認された(2021年7月21日注意喚起) 

アマゾンで、カシミヤが全く含まれていないストールが「カシミヤ」「素材構成:100%カシミヤ」などと表示されて販売されたが、またしても消費者庁が販売事業者の実体を特定することができなかった(2021年12月17日注意喚起) ―などの事例が報告されている。

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同法の施行で

消費者が、販売事業者の連絡先等の情報を、デジタルプラットフォーム提供者に、開示請求できるようになる

どのような場合に開示請求ができるのか。

消費者は販売業社等に対し、1万円以上の金銭の債権(慰謝料や拡大損害も含む)がある

  債権とは、債務不履行または不法行為に基づく損害賠償請求権が考えられる(Q&Aから)。

   損害には、取引額のほかに拡大損害や慰謝料等も含まれる(同)。                               

販売業社等(消費者間取引は対象外)と連絡が取れないために、

 その債権の行使に情報を確認する必要がある

不正の目的ではない場合が対象 

    書面かメールで、

 情報の確認を必要とする理由

  ・債権を有する事実関係(取引日時や取引内容、取引金額など)

   ・情報の確認を必要とする事情 (いつ、だれに、どのような方法で連絡を取ろうと試みたかなど)                                           

   必要とする情報の項目

      ・氏名、住所、電話番号、FAX番号、電子メールアドレス、法人の場合は法人番号)

       ⇚口座番号も開示対象にするよう求める意見もあったが認められなかった

     ・特定商取引法11条ではバーチャルオフィス等の電話番号や住所の記載も認められているが、

      記載された電話番号で連絡が取れない場合は、販売事業者の電話番号が開示請求の対象になる。

   不正の目的のために利用しない旨の誓約-を記載して請求

開示請求標準書式が、消費者庁HP、同法Q&Aの中で示されている

取引デジタルプラットフォーム提供者は予め、販売業者等の意見を聞かなければならない

この際、原則として販売事業者等に対して消費者に関する情報等を開示することになる。  

そもそも特定商取引法11条で、通信販売事業者は、広告を行う際には、事業者の氏名(名称)、住所、電話番号、法人の場合は責任者の氏名等を明記する義務を負っているわけで、その義務を守っていない事業者の身元を知るために、 1万円以上の要件があったり、誓約をしたり、開示請求の過程で取引デジタルプラットフォーム提供者が販売業者等の意見を聞く(この際、原則は請求者の情報を伝える)こと自体、消費者からすれば本来は疑問でしかない。

このほか

 ◇内閣総理大臣への申出制度を創設


①何人も取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益が害されるお     

それがあると認めるときは、内閣総理大臣に対し適当な措置を取るべきことを申し出ることができる。

②内閣総理大臣は、必要な調査を行い、適当な措置をとらなければならない。

※5月2日に消費者庁HPに申出フォームが開設された

https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/digital_platform/inquiry/disobey_form/

◇出品の停止要請 

①内閣総理大臣は、商品の安全性などについて、著しく虚偽・誤認表示があり、かつ、

   表示をした販売業社を特定できず個別法の執行が困難な場合

  取引デジタルプラットフォーム提供者に対し、出品停止を要請することができる。

②要請したときはその旨を公表することができる 

※ 措置を取った場合に販売事業者に生じた損害への取引デジタルプラットフォーム提供者の賠償を免責

追加:国会審議を経て規定された内閣府令で、結局ほとんど使えないことが明らかになっている。

内閣府令4条1項1号によると、商品の性能の優良誤認があった場合が対象とされているものの、特商法などの個別法の執行が困難な場合とされ、執行現実的にされていなくても執行ができる場合は対象にならない。リコール製品は対象にならない。

景表法で措置命令が出された商品が販売されていても、内閣府令4条1項2号は「1号の表示をした販売事業者が特定できない、所在が明らかでない等の事由により、当該表示の是正が期待できないこと」としており、事業者の是正が期待できないものとはならない。

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【法律と内閣府令の詳細】   =パブリックコメントを経て変更された部分

◇取引デジタルプラットフォーム提供者の努力義務

<法31>

取引デジタルプラットフォーム提供者は、次に掲げる措置を講ずるよう努めなければならない。

<1> 消費者が販売事業者等と円滑に連絡することができるようにするための措置。

 <2>販売条件等の表示に関し苦情の申し出を受けた場合に、事情の調査その他表示の適性を確保するために必要と認める措置。

 <3> 必要に応じ販売事業者に身元確認の情報提供を求めること。

<3条2項>

取引デジタルプラットフォーム提供者は、内閣府令で定めるところ※により、前項の規定に基づき、 講じた措置の概要と実施状況、その他内閣府令で定める事項※②を開示するものとする。

【内閣府令】

➀ 開示の内容が日本語で作成されていないときは、日本語の翻訳文を付す

一 消費者がその使用に係る電子計算機の映像面において、常に容易に閲覧することができるように表示すること。

二 消費者にとって明確かつ平易な表現を用いること。

※② 一 取引デジタルプラットフォーム提供者が講じた措置の概要

二 措置の実施の状況

      三 第一号の措置のほか、取引デジタルプラットフォーム提供者が取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護のために講じた措置がある場合には、措置の概要・実施の状況

◇出品の停止要請

<法4条1>

内閣総理大臣は、次の要件のいずれにも該当する場合に、消費者の利益が害されるおそれがあると認めるときは、販売事業者等による当該商品や特定権利の販売、役務提供に係る当該デジタルプラットフォームの利用停止その他必要な措置を要請することができる。

<1>商品の安全性の判断に資する事項その他の商品の性能、特定権利・役務の内容に関する重要事項として内閣府令で定めるもの※③について、著しく事実に相違する表示、または著しく優良誤認させる表示と認められること。

<2> 1号の表示をした販売事業者が特定できない、所在が明らかでない等の事由により、当該表示の是正が期待できないこと。

【内閣府令】

※③ 一 商品・役務の安全性の判断に資する事項

    二 国、地方公共団体、著名な法人、その他の団体、著名な個人の関与 

    三 商品の原産地、製造地、商標、製造者名 

    四 資格、登録、免許、許可、経験を証する事項 

    五 取引デジタルプラットフォームを利用して行われる通信販売に係る取引を行うか否かについての消費者の判断に通常影響を及ぼすもの 

<法4条2項>要請した旨を公表。

<法4条3項>上記措置で販売事業者に生じた損害への賠償を免責。


消費者が販売事業者の情報を開示請求できる権利を創設

<法5条1>

消費者は、自己の債権(金銭の支払を目的とし、かつ、その額が内閣府令で定める額※④を超えるものに限る)を行使するために、販売事業者等の氏名または名称、その他当該債権の行使に必要な販売事業者等に関する情報として内閣府令で定めるもの※➄(「販売事業者等情報」という)の確認を必要とする場合に限り、開示請求することができるものとする。

  信用を毀損する、不正目的の場合は、この限りでない。

【内閣府令】

※④1万円とする。

➄氏名、名称(法人や団体は名称、代表者氏名)。住所。電話番号。ファクシミリ番号、電子メールアドレス。法人番号。

 <法5条2項>

  内閣府令の定めるところ※⑥により、次の事項を記載し、または記録した書面または電磁的記録を提出し、または、提出しなければならない。

 販売事業者等情報の確認を必要とする理由。

   請求の対象となる販売事業者等情報の項目。

     不正の目的のために利用しない旨の誓約-を記載して請求。

【内閣府令】

※⑥郵便または信書便電磁的記録(電磁的方法=消費者の使用に係る電子計算機と取引デジタルプラットフォーム提供者の使用に係る電子計算機とを 接続する電気通信回線を通じて送信し、受信者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録する方法。消費者の使用に係る電子計算機に備えられたファイルに記録された情報の内容を電気通信回線を通じて取引デジタルプラットフォーム提供者の閲覧に供し、当該取引デジタルプラットフォーム提供者の使 用に係る電子計算機に備えられたファイルに当該情報を記録する方法

<53>取引デジタルプラットフォーム提供者は、請求が要件に該当し、かつ、不正の目的でないと思料する場合は、当該販売事業者と連絡ができない場合を除き、開示するかどうかについて当該販売業者等の意見を聞かなければならない。  

 

内閣総理大臣への申出制度を創設

10条>
 ・何人も取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益が害される。

おそれがあると認めるときは、内閣総理大臣に対しその旨を申し出て、適当な措置を取るべきことを求めることができる。

・内閣総理大臣は、必要な調査を行い、適当な措置をとらなければならない。

【内閣府令 その他必要な事項】

申出の方法:次に掲げる事項を記載し、書面または電磁的記録を提出

一 申出人の氏名または名称、住所、電話番号

二 申出にかかる取引デジタルプラットフォームの名称

三 申出の趣旨

四 その他参考となる事項

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消費者間の取引は対象外だが、例えば、メルカリは、販売業者あるいは“隠れB”と呼ばれる

消費者個人を装った販売業者との取引は、同法の対象になる。

どのように消費者か、販売事業者を見分けるかは

「販売業者等に係るガイドライン」(2022年4月20日公表)で示されている。

主な内容は以下。

基本的な考え方

・「販売業者等」は、①営利の意思を持って②反復継続して取引を行う者をいう。

・画一的な基準を定めることは困難で、個別具体的な事情を総合考慮して判断するための考慮要素と具体例を示す。

商品・サービスそのものの考慮要素

➀商品の性質が販売前提か②新品の数③特定のカテゴリーか

具体例

➀いわゆる情報商材(副業、投資、ギャンブル等のノウハウとして販売されている情報)

②相当数の新品を自身では使用せず転売している場合

③相当数のブランド品、健康食品、チケット等、特定のカテゴリーの商品等を販売している場合 

商品・サービスの提供方法などの考慮要素

④同一商品の複数出品⑤許可・免許・資格・登録が前提か⑥口コミ数

具体例

④メーカー、型番等が全く同一の商品を複数出品している場合

⑤許可や免許、資格(法律上の根拠のないものを含む)、登録等を前提とした

商品を販売している場合  

⑥一定期間内に継続的に相当数の「口コミ」(商品購入者やサービス利用者の口コミ)を

受けている場合 

   =パブリックコメントを経て修正された部分

その他

デジタルプラットフォーム以外の場で販売を業として営む者は、その数量や金額等にかかわらず、原則として「販売事業者等」に該当すると考えられる。

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取引デジタルプラットフォーム提供者に課された努力義務を、「適切かつ有効に実施するための指針」も示されている。

おもな内容は以下

<1号> 消費者が販売事業者等と円滑に連絡することができるようにするための措置。

【指針】

○基本的な取り組み:

・連絡先や連絡手段が、消費者が容易に認識することができるような文字の大き さ・方法をもって、容易に認識することができるような場所に示されていること

 ・消費者が合理的な期間にわたり、社会通念に照らして相当な時間帯において、必要に応じ販売業者等と連絡が取れるようにすること

○望ましい取り組み例:

・販売事業者等の連絡先の表示の徹底(特商法11条の販売業者等の氏名・住所等の表示義務を遵守するため、販売事業者向けの専用ページを設ける)

・対応可能日時も記載するよう義務づける

・専用のメッセージ機能の提供する

・連絡手段が機能しているか否かを確認(定期的なパトロール、消費者からの情報受付窓口の設置)

・連絡手段が機能しない場合の対応

(消費者の連絡に対し、正当な理由なく一定期間販売業者等から阪神がない場合は取引デジタルプラットフォーム提供者が回答を促す。

消費者から、販売業者等への連絡手段が機能しないと取引デジタルプラットフォーム提供者に問い合わせがあった場合の内部的な標準処理期間を設ける)

<2号>販売条件等の表示に関し苦情の申し出を受けた場合に、事情の調査その他表示の適性を確保するために必要と認める措置。

【指針】

○基本的な取組:

  消費者が苦情の申出を行いやすい仕組を設け、苦情に係る事情の調査を行うこと等を基本的な取り組みとして、必要と認められる措置を講ずる。

○望ましい取組の例:

・消費者からの苦情の受付(注文確認画面やメール、商品ページごとに苦情申出のためのリンクを貼る。申出を行った消費者に回答する。購入後に限定せず購入前の苦情も受け付ける)

・関係者への照会等(安全性や知的財産権の侵害等のリスクが高い商品等について、製造業者、ブランドオーナー、権利者等にスムーズに照会できる仕組みを整える。

・不適正な表示が行われた場合の対応(利用規約に基づき比例的な制裁を行う。違反記録を蓄積し改善に活用する)

※苦情につながらない前段階の取組が考えられる。

➀利用規約で販売禁止対象商品・禁止行為を定める(法令違反に加えて、公序良俗違反やトラブルにつながりかねない出品等についても取引デジタルプラットフォーム提供者のポリシーに基づいて禁止する)

② 販売禁止対象商品・禁止行為のリストは、可能な限り具体的なものとする(例

えば、「法令に違反するもの」といったレベルではなく「○○法の規格基準に

適合していないもの」「○○に関し効果・効能をうたうもの」等)。

③ 消費者が「何が販売禁止対象商品・禁止行為であるのか」を把握できるよう、

専用ページ等により周知する。

④ 特に消費者の生命・身体に危険が及ぶような商品・役務について、必要に応じ、

・事前審査を行う

・商品説明に取扱いに当たっての注意表示の記載を求め、当該記載がない商品

は削除等の措置を行う等、不適正な販売条件等の表示をあらかじめ防止するための仕組みを導入する。

⑤ リコール対象製品等の危害を及ぼすおそれのある商品等を購入した消費者向けに、メールやアプリでの通知等により注意喚起等の情報提供を行う

<3号> 必要に応じ販売事業者に身元確認の情報提供を求めること。

【指針】

○基本的な取り組み:

 販売業者等の表示について問題のおそれのある事例に接した場合に情報の提供を求めること。そのために、アカウント登録時に、販売業者の特定に資する情報の提供を求めること。日常的な監視活動を通じて疑わしい事例に接した場合に販売業者等に対し裏付けの資料を求めること などが期待される。

○望ましい取り組み例:

・アカウント登録に当たり、法人であれば法人番号また登記事項証明書等、個人事業主であれば住民票や事業証明書等の情報や公的書類の提出を受ける。また、アカウント登録情報の変更時にも、変更しようとする情報を裏付ける資料の提出を受ける販売業者等の公的書類の提出を受ける。

・氏名や名称が、登録された銀行口座と名義が一致しているか確認する。

・許可等が必要な商品は証明書の提出を受ける。

・登録情報と異なる情報に接したときは事実確認を行い、正しい情報の記載を求める。

取引デジタルプラットフォームを利用する消費者の利益の保護のための取組を効果的かつ円滑に行うため、内閣総理大臣、国の関係行政機関、取引デジタルプラットフォーム提供者からなる団体、国民生活センター、地方公共団体、消費者団体等で構成される取引デジタルプラットフォーム官民協議会が組織される。

取引デジタルプラットフォーム官民協議会準備会が法施行前に設置され、内閣府令案、指針案が協議された。















成年年齢引き下げ④ 消費者契約法2022改正法案衆院通過 2018年の宿題は放棄か 

 消費者契約法2022年改正案は4月21日、本会議で賛成多数で可決され、衆議院を通過した。

成年年齢を引き下げる2018年改正民法、2018年消費者契約法改正法付帯決議が求めた

高齢者や若年成人らに対応するための「合理的に判断することができない事情を不当に利用したつけ込み型不当勧誘取消権の創設」は実現できないまま。

成年年齢引き下げの判断は国会に委ねられ、その前提として2020年までに整備することが求められた宿題を果たせないままだ。

にもかかわらず、

付帯決議には、

検討期限も切らず

「判断力の低下等個々の消費者の多様な事情に『応じた』取消権」の検討を開始することのみしか盛り込まれなかった。

消費者庁、政府の責任は大きい。

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そうそうたる専門家が、「消費者契約法改正に向けた専門技術的側面の研究会」で7カ月、「消費者契約に関する検討会」で1年9カ月、合計2年4カ月をかけて検討し、提案した3つの取消権創設が提案されたが、

4月19日、消費者庁は、「脆弱な消費者、さまざまな脆弱性がある消費者像は、必ずしも現行の消費者契約法の枠組みでは捉えられないもの」と答弁した。

そんなことが、条文化する段階で初めて明らかになったというのか。

「事業者の行為によって判断力が低下したわけではない」

「事業者の行為でなければ規定できない」などと意味不明な説明を繰り返しているが

「消費者の判断力の低下につけ込んだ行為」をなぜ規定できないのか。その理由さえ明確に説明できず

現行法で対象にならないという脆弱性に応じた取消権の創設が、どうしてできるのか。

成年年齢を引き下げる2018年改正民法、2018年消費者契約法改正法付帯決議の実現は放棄するのか。

待ったなしで対応が求められる超高齢化、若年成人への消費者被害の予防救済策をこの先何年も、消費者契約法では対処せずに、放置するというのか。



2022年4月18日月曜日

③成年年齢引き下げ 2022国会審議中の契約取消権とは

 

成年年齢を引き下げる改正民法、2018年改正消費者契約法成立時に国会が課した宿題は

20206月までに

「高齢者、若年成人、障害者等の知識・経験・判断力の不足など、消費者が合理的な判断できない状況につけ込んだ場合の取消権」を創設することだった。

 では、消費者庁が今、2022年通常国会に提出している取消権はどんなものか。

 消費者契約法改正案4条3項4

当該消費者が当該消費者契約の締結について勧誘を受けている場所において、当該消費者が当該消費者契約を締結するか否かについて相談を行うために電話その他の内閣府令で定める方法によって当該事業者以外の者と連絡する旨の意思を示したにもかかわらず、威迫する言動を交えて、当該消費者が当該方法によって連絡することを妨げること(新設)

 「威迫を交え、その場で第三者に相談することを妨げた場合」の取消権が提案されている。

宿題が求めた内容とはあまりにかい離している。しかも施行は公布から1年。

 内閣府令では、電話のほか、電子メールやSNSなどの相談が対象にされると見られる。

 「もう大人なんだから相談しないで決めよう」などと言われたときに、消費者側が「威迫する言動を交えて妨害されたのか」を立証することができるのか。その場で相談したいと言ったことを消費者がどう立証できるのかが問われそうだ。

消費者契約法は、「立証責任は全て消費者側」にある。

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消費者庁の検討会報告書が提案した取消権

改正法案ではすべて立法化できず

消費者庁の検討会報告書が提案した取消権が、全く改正法案に盛り込まれていないことが、国会で問題になっている。

47日、その理由を与野党から追及され、繰り返し消費者庁が答弁されている内容が以下だが、4月12日の参考人質疑では、答弁内容が立法化できなかった本当の理由とは思えないことが浮き彫りになってきている。

消費者庁は啓発ばかりをやっているが、

若年成人に消費者被害にあわない自己防衛を呼びかける前に、

「消費者の脆弱性につけ込んで不当な行為を行った事業者に経済的不利益を与える取消権」を創設し、

公正な市場を作ることが求められている。

 

消費者の判断力に着目した取消権

【検討会報告書の提案内容】

判断力の著しく低下した消費者が、自らの生活に著しい支障を及ぼすような内容の契約を締結した場合の取消権

【立法化できなかった理由

<事業者の行為によって消費者の判断力が低下しているわけではないため、従来の取消権を超える側面がある>

 ⇚ すでに消費者契約法4条4項の過量販売取消権がある。事業者の行為で過量契約をした  わけではなく、消費者の判断力の低下があることを前提に取消権を認めていると、参考人は意見陳述している。

 ⇚ そもそも、消費者庁検討会の中では、民法の意思能力無効に類する規定の検討と説明されてきた。このような説明は、7カ月間行わた研究会、1年9カ月行われた検討会に関わってきた専門家に対しあまりに失礼。

 ⇚ 本当にそうであれば、当初からそのことを前提に別の検討をすべきだったはずだ。

<生活に著しい支障を及ぼす内容の契約となるかは、消費者の生活状況が一様ではないことから取消権として規定することは困難>

 ⇚ すでに規定がある過量販売取消権の過量の内容は、消費者の生活状況が一様ではないが規定されている。できない理由にはなっていない。

消費者の心理状態に着目した取消権

【検討会報告書の提案内容】

正常な商慣習に照らして不当に消費者の判断の前提となる環境に対して働きかけることにより、一般的・平均的な消費者であれば当該消費者契約を締結しないという判断をすることが妨げられることとなる状況を作出し、消費者の意思決定が歪められた場合の取消権

【立法化できなかった理由

<意見の隔たりがあり、幅のある形で報告書がまとめられた>

⇚ まとまっていない、幅があるとは考えていない。「考えられる対応」として結論は書かれている。議論の中で出た意見が、「なお」以降に書かれているが、両論併記ではない。検討会に委員を出している団体を代表する参考人のほか、複数の参考人がこう主張した。

<取消権は強い効果と、事業者の行為規範の機能を持つため、消費者の使いやすさ、事業者の予見可能性、要件の明確性の要素が全て満たされることで十全に機能する>

⇚ 予見可能性は必要だが、過剰。実現できない説明にはなっていない。

<消費者が慎重に検討する機会を奪う行為を捉える考え方が示されたが、困惑させる行為との区別が難しいときもあるのではないかという指摘もされた>

⇚ 慎重に検討する機会を奪うことで、一定の心理状態にあることにつけ込んで契約させた場合の取消権を置くことは可能。 意味不明な答弁。

困惑類型の受け皿となる脱法防止規定

【検討会報告書の提案内容】

現行法で取消対象になる不退去、退去妨害、契約前に契約内容を実施、契約を目指した活動をして交通費などを請求した場合と、実質的に同程度の不当性を有する行為について、脱法防止規定を設ける

【立法化できなかった理由

<意見の隔たりがあり、幅のある形で報告書がまとめられた>

⇚ 同上。当初は、困惑類型の中の強迫類似型と漬け込み勧誘型に分けて、それぞれ脱法防止のための受け皿規定が検討されたが、報告書は強迫類似型のみの提案になっている。

<取消権は強い効果と、事業者の行為規範の機能を持つため、消費者の使いやすさ、事業者の予見可能性、要件の明確性の要素が全て満たされることで十全に機能する>

⇚ 同上。受け皿規定は、不当条項を無効とする類型では、すでに契約法10条がある。できない理由にはなっていない。

改正法案では、受け皿規定は盛り込まれず、以下の新しい取消権と、現行の取消権の一部修正が追加されている。

消費者契約法第4条3項3号 

当該消費者に対し、当該消費者契約の締結について勧誘をすることを告げずに、当該消費者が任意に退去することが困難な場所であることを知りながら、当該消費者をその場所に同行し、その場所において当該消費者契約の締結について勧誘をすること。(新設)

⇒ 勧誘目的を告げずに退去困難な場所へ同行し勧誘した場合 の取消権

消費者契約法第4条3項9号

 当該消費者が当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をする前に、当該消費者契約を締結したならば負うこととなる義務の内容の全部若しくは一部を実施し、又は当該消費者契約の目的物の現状を変更し、その実施又は変更前の原状の回復を著しく困難にすること (下線部分を追加)

⇒ 勧誘前に目的物の現状を変更し、原状回復を著しく困難にした場合

  現行法では、竿竹を切ってしまって物干し竿の売買契約をさせた場合だけでなく、パッケージを破いてしまった場合なども明確化する。

本来は、退去、退去妨害だけでなく、深夜まで勧誘する、断っても執拗に勧誘する、契約しないと怒るなど、同程度の悪質な勧誘行為を捉える受け皿規定が求められたが

個別具体的な取消権が追加されたに過ぎない。

厳格な要件の取消権が、後追い的に追加され、救済できる被害が限定される問題が指摘され法律のすき間から抜け落ちる被害を救うための包括的な規定の導入を検討会報告書は求めたが、結局、課題は解決せず、さらに問題を増幅させる結果となった。

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「20~24歳」と「18、19歳」の相談件数を国民生活センターに提供してもらい分析した。その結果、マルチ商法は、2020年度2021年度ともに6倍、エステティックサービスはそれぞれ5倍、4.4倍、美容医療は3.3倍、3倍、情報商材は2.5倍、2.9倍だった。副業・情報商材やマルチなどの"もうけ話"、エステや美容医療などの"美容関連"、「金」と「美」に関連する相談が増えることが懸念される。

今回の改正を経ても、法整備が十分とはいい難い。今後の展望が現時点では見えない。

【参考】消費者契約法 現行法の契約取消権

誤認して契約した場合の取消権                            ①重要事項について事実と異なることを告げた場合                                ②消費者の利益となる旨を告げながら、重要事項について不利益になる事実を故意に告げなかった場合(重大な過失を2018年改正で追加)                     ③将来の変動が不確実な事項について確実であると告げた場合

困惑して契約した場合の取消権                           ①帰ってくれと言っても帰らない場合                        ②帰りたいと言っても帰してくれない場合                         ③就職セミナー商法等(消費者が社会生活上の経験が乏しいっことから、願望の実現に不安を抱い知恵ることを知りながら不安をあおり、契約が必要と告げた場合) 2018年改正で追加                ④デート商法等(消費者が社会生活上の経験が乏しいことから、勧誘者に好意の感情を抱き、かつ、勧誘者も同様の行為を抱いていると誤信していることを知りながら、契約しなければ関係が破綻すると告げた場合)                            ⑤加齢や心身の故障により判断力が著しく低下していることから、現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、不安をあおり、契約が必要と告げた場合                                                                   ⑥霊感等の特別な能力により、消費者がそのままでは重大な不利益が生ずると不安をあおり、契約が必要と告げた場合                            ⑦契約前に契約内容の全部または一部を実施し、実施前の原状回復を著しく困難にした場合                 ⑧契約のための事業活動をし、これにより生じた損失補償を請求した場合 

  ③〜⑧は2018年改正で追加 (➄⑥は、消費者庁が③④に報告書になかった社会生活上の経験が乏しい要件を追加したため、衆議院の修正協議で追加された)

過量契約取消権 通常の分量を著しく超える分量を勧誘


 

②成年年齢引き下げ 使えない「デート商法取消権」

 消費者庁は今国会で、消費者契約法2018年の改正時に、「若者に発生している被害事例を念頭に対応策を講じてきた」と答弁している。

では、

20186月の消費者契約法改正(施行20196月)で、

20196月から使えるようになった若年者被害に対応する新た契約取消権とはどんなもなのか。

 悪質業者には知られたくないため、あまり書きたくないが

◇消費者契約法43項4号

当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること     (下線部分は消費者委員会の答申から変更されて実現した部分)

①消費者が、社会生活上の経験が乏しい

②勧誘者に好意の感情を抱いている

③かつ、勧誘者が消費者に同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら

④勧誘者が、契約しなければ関係が破綻すると告げた

4つの要件を満たさなければ、契約を取り消すことができない

マッチングアプリで知り合った女性と会うことになり、アクセサリー関連の職場に連れていかれて、断り切れず、消費者金融のATMに連れていかれて数十万円のダイヤの指輪やネックレスを購入させられた

 というのが典型事例だが、  ~④の要件が厳格すぎて、なかなか要件を満たず取り消せないのが実情だ。

毛 悪質業者は巧妙で、契約しなければ関係が破綻するなんて言わない。

しかも、消費者契約法は、立証責任はすべて消費者側にある。相手が知りながらの要件を消費者側が立証するのは難しいい。この要件を満たさなければ何をやってもいいと言わんばかりの取消権と批判されている。

マッチングアプリで知り合った男性に勤務先のダイビングショップに連れていかれ、潜水のための講習料15万円、資格を取るための講習料40万円、20歳の誕生日を機にダイビング機材一式70万円と次々に契約させられる事例も目立つ。

ロマンス投資詐欺の被害も急増している。

「SNSで知り合った男性から、教えてあげるから投資を一緒にやろうと誘われ、暗号資産に50万円、80万円、100万円と次々に500万円程度を入金してしまったが、税金を払わないと出金できないと言われた」(20223月東海地方40歳代女性)

「婚活アプリで知り合った男性に一緒にマンションを買おうと誘われて暗号資産に投資したが出金できない。結婚の話もされて一緒に住むマンションを買おうと言われ、10回以上1000万円を超える投資してしまった」(20221月南関東地方50歳代女性)

詐欺の場合、連絡が取れなくなった相手の特定が困難で交渉すらできない。


デート商法の相談件数は

2019年6月以降も増え続け、相談者の平均年齢が上がっているのが現状だ。

「社会生活上の経験不足」

答申になかった要件を消費者庁が勝手に追加

123回の検討を経て消費者委員会消費者契約法専門調査会がまとめた報告書の提案内容は、「勧誘に応じさせる目的で、密接な関係を新たに築き、契約しなければ関係が維持できないと告げた」場合の取消権を提案していた。

 「社会生活上の経験不足」の要件は、成年年齢引き下げに対応する口実のために、消費者庁が独自に要件と追加したとしか考えられない。

この要件がなくても、非常に厳格だ。この要件を追加したことで、30歳代以上の中高年の救済が難しくなっている問題もある。

国会は、この要件が追加されたことで紛糾。当時の福田照消費者担当相が、本会議答弁での社会生活上の経験不足の解釈をひっくり返したことで、初めて衆議院消費者問題特別委員会の審議が止まった経緯もある。当時から、消費者庁の答弁はあまりにお粗末でひどい。

【参考】本会議答弁では、「例えば、霊感商法等の悪徳事業者による消費者被害については、勧誘の態様に特殊性があり、通常の社会生活上の経験を積んできた消費者であっても、一般的には本要件に該当する」としていた。

この部分を、削除し「社会生活上の経験が乏しい」要件に該当するのは、「若年者」とし、「若年者でない場合でも、民法により救済される」に改めると発言した。

撤回はしたものの、衆議院消費者特では「若年者でない場合であっても、就労経験等がなく、外出することも めったになく、そして他者との交流がほとんどないなど、社会生活上の経験が乏しいと認められる者については、本要件に該当し得る。これは例示で、ほかの例も排除しない」。「消費者が若年者で ない場合であっても、社会生活上の経験の積み重ねにおいて、これと同視すべきものは本要件に該当し得るということで整理した」と発言していた。

同法逐条解説では「社会生活上の経験が乏しいか否かは、年齢によって定まるものではなく、中高年のように消費者が若年者でない場合であっても、社会生活上の経験の積み重ねにおいてこれと同様に評価すべき者は、本要件に該当し得る」としているが、事例は「実家暮らしの20 歳の大学生」しか書かれていない。

中高年の被害が救済できるかどうかは事業者の対応次第、後は裁判所が判断することになる。

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もう一つ、30年改正で追加された取消権がある。就活セミナー商法(「自己流の対策では就活に失敗する」などと不安をあおられた場合)などでは活用できているが、要件が厳しく適用される場面がこれも限定されている。

◇過大な不安をあおる告知(43項3号)

当該消費者が社会生活上の経験が乏しいことから次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。

(イ) 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項

(ロ) 容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項

                 (下線部分は消費者委員会の答申から変更された部分)

 消費者委員会の答申では、「消費者の不安を知りながら、損害等を回避するために、必要だと正当な理由なく強調して告げた」場合と、全世代を対象に霊感商法なども想定した取消権が提案されていた。

野党は「社会生活上の経験が乏しい」の削除を求めたが、与党はこれを拒否。

以下の取消権を追加することで修正され決着した。

分かりにくく、厳格な要件を満たせないすき間で、救済できない被害が多く発生する問題が出てきた。民法の特別法としての役割を果たしていないという批判が出ている。

修正で追加された取消権は以下

◇著しい判断力不足につけ込み過大な不安あおる(435号)

当該消費者が、加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること

◇霊感商法等(436号)

当該消費者に対し、霊感その他の合理的に立証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

この法律の成立時に、国会が課した宿題は以下。その対応がどうされたかは「③成年年齢引き下げ、2022国会審議中の契約取消権とは」で。

消費者契約法の一部を改正する法律案に対する付帯決議          

三 消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して、事業者が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における取消権の創設について、要件の明確化等の課題を踏まえつつ検討を行い、本法成立後二年以内に必要な措置を講ずること。

            (平成30523日 衆議院消費者問題に関する特別委員会) 

 四 高齢者、若年成人、障害者等の知識・経験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して事業者が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)の創設について、消費者委員会の答申書において喫緊の課題として付言されていたことを踏まえて早急に検討を行い、本法成立後二年以内に必要な措置を講ずること。

            (平成3066日 参議院消費者問題に関する特別委員会)

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参考】消費者契約法 現行法の契約取消権

誤認して契約した場合の取消権                            ①重要事項について事実と異なることを告げた場合                                ②消費者の利益となる旨を告げながら、重要事項について不利益になる事実を故意に告げなかった場合(重大な過失を2018年改正で追加)                     ③将来の変動が不確実な事項について確実であると告げた場合

困惑して契約した場合の取消権                           ①帰ってくれと言っても帰らない場合                        ②帰りたいと言っても帰してくれない場合                         ③就職セミナー商法等(消費者が社会生活上の経験が乏しいっことから、願望の実現に不安を抱い知恵ることを知りながら不安をあおり、契約が必要と告げた場合) 2018年改正で追加                ④デート商法等(消費者が社会生活上の経験が乏しいことから、勧誘者に好意の感情を抱き、かつ、勧誘者も同様の行為を抱いていると誤信していることを知りながら、契約しなければ関係が破綻すると告げた場合)                            ⑤加齢や心身の故障により判断力が著しく低下していることから、現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、不安をあおり、契約が必要と告げた場合                                                                   ⑥霊感等の特別な能力により、消費者がそのままでは重大な不利益が生ずると不安をあおり、契約が必要と告げた場合                            ⑦契約前に契約内容の全部または一部を実施し、実施前の原状回復を著しく困難にした場合                 ⑧契約のための事業活動をし、これにより生じた損失補償を請求した場合 

  ③〜⑧は2018年改正で追加 (➄⑥は、消費者庁が③④に報告書になかった社会生活上の経験が乏しい要件を追加したため、衆議院の修正協議で追加された)

過量契約取消権 通常の分量を著しく超える分量を勧誘





 

2022年4月17日日曜日

①成年年齢引き下げ 18歳19歳で失った未成年取消権

 成年年齢引き下げで想定される若年者の消費者被害に対応するための法整備は、あまりにお粗末だ。消費者庁、政府の責任は大きい。現在も国会で審議中だが、なぜ法整備ができないのか。情けない答弁が繰り返されている。状況を報告しておく。

202241日、改正民法が施行され、成年年齢が20歳から18歳に引き下げられた。

18歳で失ったものがある。

「未成年取消権」

 「(正確には法定代理人)が、同意していなければ、

事業者の行為が不当かどうか関係なく、契約を親か本人が、取り消すことができる」。

 消費者被害の鉄壁の防波堤。消費者被害救済の特効薬と呼ばれている。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

成年年齢を引き下げる改正民法が成立したのは2018613日。

このときに、国会は宿題を出していた。

成立後2年以内に

知識・経験・判断力の不足など合理的な判断をすることができない状況に、つけ込んで契約させた場合の取消権」を創設せよ

でも、2年はとうに過ぎ

4年を過ぎようとしているが、取消権はできていない。

民法の一部を改正する法律案に対する付帯決議

 一 成年年齢引下げに伴う消費者被害の拡大を防止するための法整備として、早急に以下の事項につき検討を行い、本法成立後二年以内に必要な措置を講ずること。

1 知識・経験・判断力の不足など消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して、事業者が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における消費者の取消権(いわゆるつけ込み型不当勧誘取消権)を創設すること。

                    (平成30612日 参議院法務委員会)

【参考】未成年取消権の詳細

 以下の要件をすべて満たした場合に、未成年者の契約を取り消すことができる

◇契約時の年齢が18歳未満

◇契約当事者が婚姻の経験がない

◇法定代理人が同意していない

(多くは親。父母の同意が必要で、一方の同意は取り消し可)

(父母が離婚している場合は、親権を有している親。親権者がいないときは未成年後見人)

◇法定代理人から、処分を許された財産(小遣い)の範囲内でない

◇法定代理人から許された営業に関する取引でない

◇未成年者が詐術を用いていない

 (成年者、親の同意があると偽って、相手方が誤信をした場合。誤信させるための詐欺的手段をいい、単に成年であると言ったり、同意を得ていると言っただけでは「詐術」にはあたらない)

◇法定代理人の追認がない

 (代金を支払うなど債務の履行をしたり、履行の請求等をしたとき)

◇取消権が時効になっていない

 (未成年者が成年になったときから5年間、または、契約から20年間)

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【経緯】

成年年齢の引き下げは、1876年明治初期の太政官布告以来

 2007年   「日本国憲法の改正手続きに関する法律」が成立。

        満18歳以上で投票権を有する ことを規定。

        法律の付則で、公職選挙法と民法等の法制上の措置を求めた。

20082月  法務大臣が法制審議会に成年年齢を引き下げるべきかどうかを諮問。

200910月  法制審議会「民法の成年年齢の引き下げについての意見」を答申。

    民法の成年年齢の引き下げについての意見(法制審議会、20091028日)

民法が定める成年年齢を18歳に引き下げるのが適当である。

ただし、現時点で引下げを行うと、消費者被害の拡大など様々な問題が生じるおそ      れがあるため、引下げの法整備を行うには、若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である。

民法の定める成年年齢を18歳に引き下げる法整備を行う具体的時期については関係施策の効果等の若年者を中心とする国民への浸透の程度やそれについての国民の意識を踏まえた、国会の判断に委ねるのが相当である。

 20156月    公職選挙法改正案 成立。

20169月    法務省が成年年齢を引き下げる民法改正法案を国会に提出する方針。

2018313日 成年年齢を引き下げる民法改正案を国会に提出。

2018613日 成年年齢を引き下げる改正民法が成立。

           自民、公明、日本維新の会、希望の党、国民の声などが賛成

立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党、希望の会、沖縄の風などは反対した。

          参考人質疑では、学識経験者や弁護士から、

        「消費者被害の予防、救済策が全く不十分。制審議会が指摘する条件を無視するもの」

        「高校では、今回の法改正によってどのようなリスクがあるのか、一部の熱心な先生方を除いてほぼ全くと言っていいほど理解されていない」

        「今般の消費者契約法改正では、十分な対応をしていただいていない」などの反対意見が噴出していた。

          改正法付帯決議は、改正法成立後の2年以内の法整備を求めたが、

4年近く経った202241日時点で、実現していない。

2019年12月30日月曜日

ジャパンライフ被害者の方々へ 破産管財人に解除通知を 日本訪問販売協会に「消費者救済基金」給付金申請を



ジャパンライフ被害者の方々、ご家族の皆さまへ 
                        
                          日本消費経済新聞  相川優子

破産管財人に 「解除通知」をハガキで送ってください。

      2009年12月1日から 2015年10月4日までの間に
契約をした人は、お金が戻る可能性があります。
申請には➀が必要。
      ②の締め切りは
令和 2 年(2020 年)1 20 日(月) 当日消印有効  
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「解除通知」を出す理由は2つ
 日本訪問販売協会に被害者救済給付金の申請をするため。
   契約を解除、取り消しをしていないことで申請をあきらめている人も多いけれど、今から破産管財人に解除通知を出すことで、救済の対象になる契約があると思われます。
② 破産管財人が被害者に配分するためのお金を集めている。被害者救済より優先して支払われる国の消費税を減らすため。


「解除通知」 の 書き方
 【はがきの表面】
     東京都千代田区霞が関3-2-5
     霞ヶ関ビル4階 隼あすか法律事務所
     破産者ジャパンライフ破産管財人
     弁護士 高松 薫 殿


【はがきの裏面】
     解除通知  
   日付(解除通知を出す日付)
   氏名 (本人の意思表示が必要なため、必ず契約者本人が書く)
   契約時の住所
   現在の住所(住所が変わっていない人は不要)
   電話番号

 私は、破産会社ジャパンライフとレンタルオーナー契約を結んでいた者です。
 平成21121日から平成2710月4日までに締結した契約で、訪問販売にあたるものは、特定商取引法9条及び9条の3に基づいて全てを解除または取り消します。
それ以外の取引については、特定商取引法、預託法、消費者契約法、民法に基づいて、その全てを解除または取り消します。

 ハガキを書いたら
裏表コピーを2枚ずつ取って、簡易書留か特定記録郵便で出す。
 1枚は下記 日本訪問販売協会への申請に使う。
 
専門的ですが、日本訪問販売協会に被害者救済給付金を申請する場合は、H21.12.1~H27.10.4の期間の訪問販売に当たる取引をクーリング・オフ(申し込みの撤回、解除)するか、契約を取り消しておく必要あります。
訪問販売のクーリング・オフは、契約書面に不備があった場合はクーリング・オフ期間の8日が始まらないためいつでも解除可。消費者庁が書面不備の違反を認定しています。
不実告知や故意の事実不告知があった場合も、訪問販売の契約を取り消すことができます。磁気ネックレス「ファイブピュアジュエール」で消費者庁が、故意の事実不告知の違反を認定しています。

 令和2年1月20日 ※当日消印有効
 以下の申請書類を提出する必要あり。
早めにわかる範囲で書いて、
見守る人と一緒に訪販協に問い合わせて。
それでも複雑で分からない場合は、消費生活センターに協力を求めよう。


【救済の対象になる条件】
➀ 2009年12月1日から 2015年10月4日までの契約
      
② 訪問販売による契約
     ・店舗に行った場合でも、エステに来ないかと誘われた場合は訪問販売
     ・ホテルや旅館の地方大会や食事会に誘われた場合も訪問販売
     ・自宅を訪問され契約した場合は、訪問販売だが
          契約をするので来てほしいと呼んだ場合は、訪問販売にならない
③ 特定商取引法の法定解除権を行使して代金等の返金を求めていること
④ 上記の法定解除権を行使してから1年を経過していないこと
    ③④の条件を満たすために、まず、破産管財人に解除通知を送る
     
消費者庁が磁気ネックレス「ファイブピュアジュエール」で故意の事実不告知を認定している取引は、「上代購入契約」,「上代購入商品預託契約」,「短期オーナー1年契約」,「レンタルオーナー商品預託契約」,「長期オーナー20年契約」。参考に。
 
 ①~④を満たすかどうかは、1契約ごとに審査される。1契約でも対象になればいくらかはお金が戻る可能性がある。

160-0004 
東京都新宿区四谷4 丁目 1
日本訪問販売協会「消費者救済基金 係」

TEL03-3357-6531  FAX03-3357-6585

【問い合わせ先】
消費者相談室電話番号:0120-513-506


【送る書類】
➀救済給付金給付申請書 1契約に1枚ずつ書く。
    以下でダウンロード
http://jdsa.or.jp/wp-content/uploads/2019/07/kikin_yousiki1.pdf
  ②経緯説明書 これも1契約に付き1枚ずつ書く。用紙は自由。
    勧誘時の状況
 ・勧誘された時期
・勧誘者(××支店又は営業所の○○○○等と記載。名刺がある場合はコピーも送る)
・勧誘された場所
・勧誘の内容(どのような言葉又は説明により勧誘されて契約締結を決意したのか等、具体的に記載してください。)
② 契約締結時の状況
   ・契約締結日
・契約を締結した場所(自宅、営業所・店舗、喫茶店等、具体的に記載)
・契約手続きをした際の状況(具体的に記載)
③ 代金支払いの状況
   ・支払の時期
・支払方法
・領収証、振込票等があれば、その写しも添付してください。
④ 当該契約で受け取ったレンタル(リース)料等について
   ・受け取った時期と金額
・受取り方法(現金か、振込みか等を具体的に。振込みを記録した通帳等があれば、コピーも添付)
・複数の契約について同時に申請する場合は、どの契約に関連するレンタル(リース)料等の支払いなのか分かるように区別して記載してください。

勧誘や締結の状況などの書き方の例
〇年〇月〇日、
友人にエステに来ないかと誘われ○○県○○市のジャパンライフ○○支店を訪問し、〇月〇日の説明会、あるいは地方大会に誘われ契約してしまった。
     ○○店の○○が自宅に来て、ノルマが達成できないと言われ、契約してしまったなど。
      
     具体的な勧誘の言葉の例
 元本保証なのでジャパンライフに預けて利息で暮らせばいいよと言われた。
      マイナンバー制度で定期預金は税金で取られるからジャパンライフに
      預けた方がいいと言われた。
 レンタルしている商品が大幅に不足しているという説明は受けていない。
      桜を見る会の招待状や大臣と山口会長の食事会、山口会長主催の政治家やマスコミとの懇談会のスライドを見てすっかり信用したなど。
      
   契約書・申込書  これはコピーに。原本は持っておく
   パンフレットやカタログ、チラシ あれば送る。コピーで可。
   契約解除・取り消しを行ったことを示す書面
      管財人に送ったハガキのコピーを送る。
   支払いがある場合に振り込んでもらう口座を書いた「救済給付金振込先指定書」
 以下でダウンロート
 http://jdsa.or.jp/wp-content/uploads/2019/07/kikin_yousiki2.pdf

※訪問販売協会の「消費者救済に係る審査委員会」が、1契約ごとに審査。
審査の結果、契約金額(損害額及び申請金額)にかかわらず、支払われない場合もある。支払われる場合でも、額が少額になることがある。

(救済のための基金積立額は、現時点で1億1000万円しかない。
1契約に付き支払われる上限は100万円とされているが、申請件数なども踏まえて
審査委で給付額が決定される)

    ジャパンライフの被害者は高齢で資産のほとんどを失っているため、弁護団に入っていない人が多い。
    家族や身近な人が寄り添って、申請手続きをサポートしてほしい。
    契約書が見つからない場合は、破産管財人に連絡すると対応してもらえる可能性がある。

ジャパンライフ株式会社
破産管財人室 お問い合わせ専用ダイアル
TEL:03‐3595‐7019
受付時間:10時~16時(土日祝日を除く)
年末年始休業1228日~15日まで

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