消費者庁は今国会で、消費者契約法2018年の改正時に、「若者に発生している被害事例を念頭に対応策を講じてきた」と答弁している。
では、
2018年6月の消費者契約法改正(施行2019年6月)で、
2019年6月から使えるようになった若年者被害に対応する新た契約取消権とはどんなもなのか。
◇消費者契約法4条3項4号
当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、当該消費者契約の締結について勧誘を行う者に対して恋愛感情その他の好意の感情を抱き、かつ、当該勧誘を行う者も当該消費者に対して同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら、これに乗じ、当該消費者契約を締結しなければ当該勧誘を行う者との関係が破綻することになる旨を告げること (下線部分は消費者委員会の答申から変更されて実現した部分)
①消費者が、社会生活上の経験が乏しい
②勧誘者に好意の感情を抱いている
③かつ、勧誘者が消費者に同様の感情を抱いているものと誤信していることを知りながら
④勧誘者が、契約しなければ関係が破綻すると告げた
4つの要件を満たさなければ、契約を取り消すことができない
マッチングアプリで知り合った女性と会うことになり、アクセサリー関連の職場に連れていかれて、断り切れず、消費者金融のATMに連れていかれて数十万円のダイヤの指輪やネックレスを購入させられた
毛 悪質業者は巧妙で、契約しなければ関係が破綻するなんて言わない。
しかも、消費者契約法は、立証責任はすべて消費者側にある。相手が知りながらの要件を消費者側が立証するのは難しいい。この要件を満たさなければ何をやってもいいと言わんばかりの取消権と批判されている。
マッチングアプリで知り合った男性に勤務先のダイビングショップに連れていかれ、潜水のための講習料15万円、資格を取るための講習料40万円、20歳の誕生日を機にダイビング機材一式70万円と次々に契約させられる事例も目立つ。
ロマンス投資詐欺の被害も急増している。
「SNSで知り合った男性から、教えてあげるから投資を一緒にやろうと誘われ、暗号資産に50万円、80万円、100万円と次々に500万円程度を入金してしまったが、税金を払わないと出金できないと言われた」(2022年3月東海地方40歳代女性)
「婚活アプリで知り合った男性に一緒にマンションを買おうと誘われて暗号資産に投資したが出金できない。結婚の話もされて一緒に住むマンションを買おうと言われ、10回以上1000万円を超える投資してしまった」(2022年1月南関東地方50歳代女性)
詐欺の場合、連絡が取れなくなった相手の特定が困難で交渉すらできない。
デート商法の相談件数は
2019年6月以降も増え続け、相談者の平均年齢が上がっているのが現状だ。
「社会生活上の経験不足」
答申になかった要件を消費者庁が勝手に追加
1年23回の検討を経て消費者委員会消費者契約法専門調査会がまとめた報告書の提案内容は、「勧誘に応じさせる目的で、密接な関係を新たに築き、契約しなければ関係が維持できないと告げた」場合の取消権を提案していた。
この要件がなくても、非常に厳格だ。この要件を追加したことで、30歳代以上の中高年の救済が難しくなっている問題もある。
国会は、この要件が追加されたことで紛糾。当時の福田照消費者担当相が、本会議答弁での社会生活上の経験不足の解釈をひっくり返したことで、初めて衆議院消費者問題特別委員会の審議が止まった経緯もある。当時から、消費者庁の答弁はあまりにお粗末でひどい。
【参考】本会議答弁では、「例えば、霊感商法等の悪徳事業者による消費者被害については、勧誘の態様に特殊性があり、通常の社会生活上の経験を積んできた消費者であっても、一般的には本要件に該当する」としていた。
この部分を、削除し「社会生活上の経験が乏しい」要件に該当するのは、「若年者」とし、「若年者でない場合でも、民法により救済される」に改めると発言した。
撤回はしたものの、衆議院消費者特では「若年者でない場合であっても、就労経験等がなく、外出することも めったになく、そして他者との交流がほとんどないなど、社会生活上の経験が乏しいと認められる者については、本要件に該当し得る。これは例示で、ほかの例も排除しない」。「消費者が若年者で ない場合であっても、社会生活上の経験の積み重ねにおいて、これと同視すべきものは本要件に該当し得るということで整理した」と発言していた。
同法逐条解説では「社会生活上の経験が乏しいか否かは、年齢によって定まるものではなく、中高年のように消費者が若年者でない場合であっても、社会生活上の経験の積み重ねにおいてこれと同様に評価すべき者は、本要件に該当し得る」としているが、事例は「実家暮らしの20 歳の大学生」しか書かれていない。
中高年の被害が救済できるかどうかは事業者の対応次第、後は裁判所が判断することになる。
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もう一つ、30年改正で追加された取消権がある。就活セミナー商法(「自己流の対策では就活に失敗する」などと不安をあおられた場合)などでは活用できているが、要件が厳しく適用される場面がこれも限定されている。
◇過大な不安をあおる告知(4条3項3号)
当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。
(イ) 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項
(ロ) 容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項
(下線部分は消費者委員会の答申から変更された部分)
野党は「社会生活上の経験が乏しい」の削除を求めたが、与党はこれを拒否。
以下の取消権を追加することで修正され決着した。
分かりにくく、厳格な要件を満たせないすき間で、救済できない被害が多く発生する問題が出てきた。民法の特別法としての役割を果たしていないという批判が出ている。
修正で追加された取消権は以下
◇著しい判断力不足につけ込み過大な不安あおる(4条3項5号)
当該消費者が、加齢又は心身の故障によりその判断力が著しく低下していることから、生計、健康その他の事項に関しその現在の生活の維持に過大な不安を抱いていていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、当該消費者契約を締結しなければその現在の生活の維持が困難となる旨を告げること
◇霊感商法等(4条3項6号)
当該消費者に対し、霊感その他の合理的に立証することが困難な特別な能力による知見として、そのままでは当該消費者に重大な不利益を与える事態が生ずる旨を示してその不安をあおり、当該消費者契約を締結することにより確実にその重大な不利益を回避することができる旨を告げること
消費者契約法の一部を改正する法律案に対する付帯決議
三 消費者が合理的な判断をすることができない事情を不当に利用して、事業者が消費者を勧誘し契約を締結させた場合における取消権の創設について、要件の明確化等の課題を踏まえつつ検討を行い、本法成立後二年以内に必要な措置を講ずること。
(平成30年5月23日 衆議院消費者問題に関する特別委員会)
(平成30年6月6日 参議院消費者問題に関する特別委員会)
【参考】消費者契約法 現行法の契約取消権
誤認して契約した場合の取消権 ①重要事項について事実と異なることを告げた場合 ②消費者の利益となる旨を告げながら、重要事項について不利益になる事実を故意に告げなかった場合(重大な過失を2018年改正で追加) ③将来の変動が不確実な事項について確実であると告げた場合
困惑して契約した場合の取消権 ①帰ってくれと言っても帰らない場合 ②帰りたいと言っても帰してくれない場合 ③就職セミナー商法等(消費者が社会生活上の経験が乏しいっことから、願望の実現に不安を抱い知恵ることを知りながら不安をあおり、契約が必要と告げた場合) 2018年改正で追加 ④デート商法等(消費者が社会生活上の経験が乏しいことから、勧誘者に好意の感情を抱き、かつ、勧誘者も同様の行為を抱いていると誤信していることを知りながら、契約しなければ関係が破綻すると告げた場合) ⑤加齢や心身の故障により判断力が著しく低下していることから、現在の生活の維持に過大な不安を抱いていることを知りながら、不安をあおり、契約が必要と告げた場合 ⑥霊感等の特別な能力により、消費者がそのままでは重大な不利益が生ずると不安をあおり、契約が必要と告げた場合 ⑦契約前に契約内容の全部または一部を実施し、実施前の原状回復を著しく困難にした場合 ⑧契約のための事業活動をし、これにより生じた損失補償を請求した場合
③〜⑧は2018年改正で追加 (➄⑥は、消費者庁が③④に報告書になかった社会生活上の経験が乏しい要件を追加したため、衆議院の修正協議で追加された)
過量契約取消権 通常の分量を著しく超える分量を勧誘
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