2016年7月24日日曜日

国民生活センター商品テスト、徳島移転の問題点を検証

国民生活センター商品テストの試行が徳島で行われている。国民生活センター相模原事務所には、3つの商品テスト棟、自動車走行試験路、家庭内事故解析棟などが完備され、自らの設備や機器を改造しならがら生活実態に合せた商品テストを年間約200件もこなしている状況下で、なぜ、徳島県に移転する必要があるのか。76日、河野太郎消費者担当相の徳島県立工業技術センター視察に同行したが、その疑問はぬぐい去れないままだ。商品テストは、その結果をリコール(商品回収や無償交換など)やJIS規格の策定・改変、制度改正・法改正などにつなげてきた実績がある。テスト結果を専門家に分析・評価してもらい、それを武器に事業者を呼んで交渉し、事業者団体を説得し、関係省庁と折衝・調整することが不可欠だ。同じ設備が徳島にあればいいという問題ではない。商品テスト機能の後退は、消費者の安全・安心な暮らしを脅かすことを知っておいてほしい。


商品テスト、徳島移転の問題点

    自前の施設、設備、機器がある中でなぜ、徳島県の施設を借りて実施するのか。
提案自体、合理性を欠く

    生活実態に合わせ、設備や機器を改造しながら実施する国民生活センターの商品テストは、借り物の機器では無理

    民間企業も借りることができる機器の使用は、秘密保持の点で問題あり
  国民生活センターは、事故品を原則、事業者に渡さない

    専門家がテスト結果を評価・分析し、それを武器に事業者を呼んでいる。
  徳島で専門家を確保できるのか

    事業者にテスト結果を見せ、納得してもらう必要があるが、徳島に事業者を呼べるのか

    製品改善や基準づくり、法改正につなげるためには、各省庁との対面での説得や調整が必要。直接会うことが不可欠

国民生活センター相模原事務所の商品テスト施設


商品テスト1号棟 (食品・化学・衣料品) 3060.10㎡
商品テスト2号棟 (電気・機械等) 1670.67㎡
商品テスト3号棟 (自動車・自転車等) 710.41㎡
その他、家庭内事故解析棟、自動車走行試験路(直線走行路・旋回試験路)、テスト用住宅等
が完備されている。

45000㎡の敷地の中に、上記商品テスト施設と、宿泊ができる研修施設がある。

国民生活センター商品テストの実績
       2014年度 2015年度
①苦情相談解決のためのテスト 204件 187件
 (各地の消費生活センターなどから依頼) 425商品 368商品
②注意喚起のためのテスト  13件 10件
 (新商品やトラブルが多い商品) 163商品 272商品

消費生活センターなどからの商品・技
   
術に関する問い合わせ・相談 1399件 1308件
   ※商品テスト分析・評価委員 30 34人
   ※事業者との対面での交渉 33 25回
   ※専門家へのヒアリング 26回 27回

生活実態に合せ、事故原因を究明
設備や施設も自ら改造

家庭内の事故は、使っているのと同じ状態で再現することが必要だ。

例えば、首浮き輪による溺水事故は、事故が起きた家庭の状況が再現できるよう風呂場のバスタブ、洗い場の高さが自由に変えられる家庭用事故解析棟で商品テストが行われた。

着衣着火のテストは、ガスコンロの高さを変えて実施された。

家庭用事故解析棟では、ガスレンジの高さ、風呂場のバスタブの高さ、洗い場の高さのほか、リビングの広さなども自由に変えることができる。生活実態に合せて試験ができる設備が必要だ。

さらに、機器を改造することも少なくない。商品を丸ごと試験するために産業用ロボットのアームはその都度、対象に合せて作ったり、これまでに作ったものを使い分けたりしている。テスト用住宅の壁を壊して窓枠を取り付け、防犯用ガラスのテストをしたこともある。自前の機器や設備でなければ改造することは困難だ。

規格基準づくりや法改正へ
関係省庁との折衝不可欠

同じ設備が徳島県にあればいいというわけではない。

同種の製品で同様の事故が想定されないかさまざまな店舗で販売している商品を試買してテストを行っている。これには首都圏が有利だ。

また、独立行政法人である国民生活センターには、法律に基づく権限はない。専門家34人に委嘱してテスト結果を分析・評価してもらい、これを武器に事業者を呼び、納得してもらう必要がある。多忙な専門家がその都度徳島に来てくれるのか。あるいは徳島で確保できるのか。徳島に事業者を呼べるのかという問題もある。

なにより、

商品テストの結果がリコールや製品改善、安全な製品の基準づくり、法改正につながっていることを忘れてはならない。

1月に公表されたセラミックファンヒーターは、同センターの商品テストで製造工程に問題があり4件同じ現象で発火事故が起きていることが確認された。重大事故として2件が公表されていた段階では、リコールは行われていなかったが、商品が無償交換されることになった。

緊急脱出用ハンマーは、自動車のガラスを割ることができない商品があった。同センターの公表を契機に、JIS(日本工業)規格が作られることになった。自転車の幼児座席は、もともと取り付けること自体想定されていなかったが、自転車の荷台の強度に関するJIS規格が変更された。まつ毛エクステンションでは、業界の基準が作られた。おしゃれ用カラーコンタクトレンズは当初は雑貨扱いだったが、同センターの商品テストをきっかけに最終的には、医療機器として扱われることになった。

商品テスト結果をもって、事業者と交渉して、製品を改善し、基準や法律改正を実現している。JIS規格の策定や改変、制度改正、法改正には関係省庁との折衝・調整が不可欠だ。これが徳島でできるのか。答えは否だ。

試行で、これらの検証は何ら行われていないことは特筆しておく。


秘密保持にも懸念
相談者特定、風評被害の恐れ
秘密保持の問題もある。国民生活センターは、原則として事故品を事業者に提供しない。消費者の視点で国民生活センターが自らテストし、原因を究明している。消費者から信頼されているゆえんだ。
どのような商品がテストされているか事前に分かると、相談者が特定される、あるいは、結果が出ない段階で風評被害につながるおそれがある。公表に影響が出ることも懸念される。今回、試行でどんな商品をテストするか公表されていないのもそのためだ。

徳島県で借りることになっている試験場の機器は、民間の企業も借りて使うことができるものが多い。さまざまな人が自由に出入りできる状況下で、国民生活センターの商品テストを行うこと自体に、問題がある。
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商品テストの徳島での試行
4施設の機器を借りて実施

商品テストの徳島県での試行は、徳島県の4カ所の施設の機器を借りて、実施することとされている。

①工業技術センター②中央テクノスクール③保険製薬環境センター④農林水産総合技術支援センター-の4つ。

数件の試験が行われるとみられるが、何を試験するかは公表されていない。

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徳島県立工業技術センター
LED全光束測定装置を配備

徳島県立工業技術センター
徳島県立工業技術センターは、19918月に開設された。31600㎡の敷地に、延べ床面積16419㎡の鉄骨鉄筋3階建の施設がある。
同施設の目玉は、LED製品から出る光の総量や色を測定するための直径3メートルの全光束測定装置。スーパーや事務所などに設置されている長さ2.4メートル(JIS規格の最大)の蛍光灯も測定できる。20124月、日本で3番目に配備された。この大きさの測定装置があるのは日本の公設試験機関ではここだけだという。
このほか、光の広がりを測定できる配光測定装置、他の製品や人体へ影響を及ぼす安全性能を評価するためのシステム、落雷や振動などから悪影響を受けないための環境性能を評価するためのシス
直径3メートルの全光束測定装置
テムなども整っている。

直径3メートル、公設施設では最大
LED製品開発の拠点

 徳島県では、200512月に「LEDを利用する光(照明)産業の集積」を目指し「LEDバレイ構想」を策定。工場・研究所等を集積させ、高度技術者の育成や先端技術の研究開発を行う拠点づくりに取り組んできた。徳島県立工業技術センターは、「LEDトータルサポート拠点」に位置付けられ、LED応用製品の開発などを支援している。  
公設の試験機関では最大
20126月には国際規格IS0/IEC17025に適合するLED測光試験所に登録されている。全国各地の企業から、開発した製品が国際規格基準に適合しているか検査の依頼がくるという。
2010年には、「LED関連企業100社集積」の目標を達成し、現在は132社に上っている。

県内製造業をサポート
試験機器を民間企業に解放
このほか、県内の中小企業、製造業をサポートするために、作った製品を分析し、JIS規格に適合しているかを試験分析できる機器がそろえられている。食品・応用生物、機械、電子技術、生活科学、材料技術、軽量・計測など、LED関連機器を含め約260種類の機器がある。これらは、県内の民間企業に開放され、2015年度は約1600件利用されている。試験の依頼は全光束測定装置を含め同年度約4500件の実績がある。
県外からの依頼は料金が2倍になるが、全光速測定装置による試験依頼は2015年度に68件あり、このうち27件が県外からだった。

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テストの目的やアプローチ、大きく異なる

徳島県立工業技術センターは、LED製品から出る光の総量や色を測定するための直径3メートルの全光束測定装置が目玉だが、国民生活センターの商品テストでは、今までに必要になったことはない。

県内工業の振興を目的に、機器を貸し出したり、試験の依頼を受けたりして、企業が開発した製品がJIS規格に適合しているかなど試験方法が決まった定形的な試験を主に実施している。試験方法が決まっていないものを、試行錯誤しながら事故原因を究明する国民生活センターの商品テストとは、目的やアプローチのし方が大きく異なっていた。

原因究明のための自前の機器
1カ所にあることが重要

例えば、LED関連で国民生活センターに持ち込まれる苦情相談は、破裂した、寿命が長いと言われていたがすぐに切れてしまったなどの相談だ。
これらの原因分析には、全光速測定装置や配光測定装置は必要ない。LED製品を含め、どの製品の性能がいいのかという性能の比較テストは行っていない。万が一、性能を測定する必要が出ても、家庭用の蛍光灯には大きな測定装置は必要ない。

細かな部分に異常がないか確認する拡大モニター、異常な発熱をしないか丸ごと製品の発熱状態を確認するための熱画像装置 、通電して電気回路の作動を確認するための安定化電源など、原因究明のための機器が必要だ。
家電製品が焦げた場合などは、加えて、非破壊のまま内部の状態を3次元で観察できるXCT、製品にジュースなどをこぼしていないか電子基板の上にある元素の分布を分析する機器なども必要になる。
徳島県立工業技術センターにこれらの機器が全くないわけではないが、数は少ない。性能も十分でないものもある。何より、何が原因か分からず、試験方法も定まっていない中で、総合病院のように同時進行でさまざまな試験を駆使しながらテストをするには、自前の機器が一カ所にあることが不可欠だ

民間企業が出入りする施設で、民間企業が使っている機器を、時間借りで行えるようなテストではない。


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