8月10日付の日本経済新聞の社説に
副作用大きい消費者契約法改正の再考を
の見出しが躍った。
どこを問題にしたかというと
「第1に、『消費者の利益になることだけを言い、不利益になることを故意にいわなかった』という要件の緩和が検討されている。
事業者が消費者の利益になることを告げなくても、都合の悪いことを故意に言わなかっただけで契約の取り消しを認める案だ」(日経新聞の社説から引用)
と不利益事実不告知の見直しを挙げている。
勧誘要件が広告に拡大されることと併せて
「消費者が『広告に書いていない』という理由だけで返品や別商品への交換を要求する事態が頻発しかねない、との懸念が事業者から出ている。事業者に法令順守のための膨大な負担が生じ、経済活動が萎縮する危険がある」(日経新聞の社説から引用)
と書いた。
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現行法で契約が取り消せるのは5つ
① 重要事項でうそをいう(不実告知)
② 将来不確実なことを断定的に説明(断定的判断提供)
③ 利益になることだけ言って、重要事項について不利益なことを故意に言わない(不利益事実不告知)
④ 帰ってほしいと言ったのに、帰らない(不退去)
⑤ 帰してほしいと言ったのに、帰してしてくれない(監禁)
相談現場から
③の不利益事実不告知による取り消しがほとんど使えないという指摘が出され続けていた。
相談現場から
③の不利益事実不告知による取り消しがほとんど使えないという指摘が出され続けていた。
利益になることをまず言って(先行行為と呼ばれる)、
重要な事項について不利益になることをわざと言わなかった(故意要件と呼ばれる)
場合が対象だが、先行要件と故意要件の両方を立証するのが非常に困難なためだ。
「不実告知型」と「不告知型」に分けて、見直しが検討されている。
「不実告知型」は、
「このマンションは眺望がいいと具体的に利益を告げておきながら、実際には後で高層建物が近くに建設されることが決まっていた」場合など
先行行為となる利益の告知が具体的で、不利益事実と強い関連がある場合。
消費者委員会の中間報告
故意要件を削除する
「不告知型」は、
「梵鐘契約で違約金2億円を説明しなかった」など
先行行為が具体的でなく不利益事実と関連性が薄い場合。
消費者委員会の中間報告
不告知が許されない事実の範囲を適切に画した上で、
先行行為要件を削除することが考えられる。
「重要事項」の概念を拡張しないこととする等、
不告知が許されない事実の範囲について、引き続き事例を踏まえ検討としている。
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うそをついた場合に取り消しを認める重要事項に、動機などが含まれないため
「消費者が消費者契約の締結を必要とする事情」
を追加することが提案されているが (消費者契約法③参照)
この不告知型は、重要事項の範囲は、
従来通り、商品やサービスの内容と取引条件のみとする提案がなされている。
例えば、
黒電話が使えなくなると思い込んで新しい電話を契約しようとしている際に、事業者が誤認していると気づいていても情報提供する必要はない。
シロアリがいると思い込んで駆除を依頼しているときに、事業者は知っていてもシロアリがいないと告げる必要はないという提案だ。
さらに、
伝えられなかった事実を知っていれば、契約していない状況があることも要件に求められる。
故意に伝えなかったことを消費者側が立証する必要もある。
もちろん、事業者が懸念を示す
告げなければ許されない範囲を明確にするための検討は当然なされることになる。
日経新聞の社説は、いささかミスリーディングな気がする。
逆に、この要件では民法の沈黙の詐欺と変わらないのではないかとの指摘がある。
せめて、故意だけではなく、重過失を認めるべきとの意見が、検討会の中でも出ていた。
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民法改正案は、今国会では審議入りできないまま先送りされたが
民法改正案が消費者保護に配慮と大きく報道されているのは
ミスリーディングだ。
判例上確立していると言われていた
不実表示、情報提供義務、暴利行為などの具体的なルール化は
範囲が明確でないなどの理由ですべて見送られた。
本来なら、正面から情報提供義務を議論すべきだが
当初から、事業者側委員は、情報提供義務は受け入れられないとしている。
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