食品表示法の新基準
栄養成分表示の義務化 7年後実施で世界の最低水準
「エネルギー」「炭水化物」「タンパク質」「脂質」「ナトリウム」の5成分
ナトリウムは消費者に分かりやすく「食塩相当量」で表記
「飽和脂肪酸」「食物繊維」は、『推奨』表示
内閣府消費者委員会の栄養表示調査会は12月4日、食品表示法で加工食品に表示を義務付ける栄養成分を「エネルギー」「炭水化物」「タンパク質」「脂質」「ナトリウム」の5成分に決めた。ナトリウムは消費者に分かりやすく「食塩相当量」で表記する。「飽和脂肪酸」と「食物繊維」は、『推奨』表示とした。栄養成分の義務化は15年6月までに施行される同法の目玉で、施行後5年以内の実現を目指す。「世界の最低ルールを今から作るのはいかがか」「米国や韓国にできて、なぜ日本はできないのか」「事業者の実行可能性より消費者の必要性を」などの意見が、議決権のないオブザーバー(食品表示部会委員)から出ている。
消費者の必要性、事業者の実行可能性、国際整合性 3要件満たせば「義務」
同調査会は、消費者委食品表示部会の3つの下部組織の1つ。同日、1回目の審議を行い、消費者庁が提示した案を原案通り了承した。
消費者庁は、①消費者の表示の必要性②事業者の実行可能性③国際整合性―の3つすべてを満たすものを「義務」とする考え方を示した。①を満たす案を「推奨」(任意ではあるが積極的に表示)、①を満たさない場合を「任意」としている。
飽和脂肪酸 過剰摂取3割 不足2割
「飽和脂肪酸」は、多くても少なくても生活習慣病のリスクを高めるといわれている。乳製品や肉などの動物性脂肪やココナツ油、ヤシ油、パーム油など熱帯植物油脂に多く含まれる。18歳以上の1日の摂取目標量は4.5g以上7.0g未満だが、19.4%の人が目標量を下回り、33.8%が上回る。目標量の範囲で摂取できている人は32.4%にとどまっている(05年~09年の国民傾向栄養調査を分析、18歳未満14.4%)。
消費者への表示の必要性は高いが、事業者の実行可能性の面で、要件満たしていないと消費者庁は説明した。文部科学省が作成している「日本食品標準成分表2010」の数値掲載率が65%(義務対象5成分は100%)にとどまり、合理的な推計を行うための書籍や文献が充実していないことをその理由に挙げている。
食物繊維 国民の6割で不足
「食物繊維」は、不足すると生活習慣病(特に心筋梗塞)を引き起こすと報告されている。目標量は18歳以上で男性が1日19g以上、女性は17g以上だが、全年齢の平均摂取量は13.7g(20歳以上の平均14.1g)と低い。目標量を摂取できている人は24.5%にとどまり、61%の人が不足している(18歳未満14・4%)。
表示の必要性は高いはずだが、消費者庁は、コーデックス委員会の必須表示事項ではなく、諸外国で義務とされている国が少ない、事業者の実行可能性の面でも「日本食品標準成分表2010」の数値掲載率が95%と100%ではない。①の条件しか満たしていないとした。
消費者庁は「推奨」は、条件が整えば、「将来的に義務化を考える」方針を示した。
「糖類」「トランス脂肪酸」 は 任意表示のまま
一方、「糖類」「トランス脂肪酸」は任意表示のまま。「糖類」は「日本人の摂取量が十分把握されておらず、摂取基準が示されていない」「日本食品標準成分表2010の数値掲載率が0%で、合理的な推計を行うための書籍、文献が充実していない」ため、①②を満たしていないと説明。
「トランス脂肪酸」は、日本人の大多数がWHO(世界保健機構)の目標値(総エネルギー摂取量の1%未満)を下回っていることから①を満たしていないとしている。
コレステロールやビタミン・ミネラル類も3要件ともに満たしていないとして、任意表示とした。
この提案に対し、池原裕二委員(食品産業センター企画調査部次長)は、「飽和脂肪酸と食物繊維について消費者から1件も問い合わせはなく、ニーズがあるか疑問」と発言。「流通部門から要請されればやらざるを得ず、推奨は実質義務になる。推奨はやめてほしい」と、任意表示とすることを求めた。
糖類は推奨とすべき 4人に1人が糖尿病予備軍 板倉委員
これに対し、板倉ゆか子委員(消費生活アナリスト)は、食物繊維は大手ではすでに表示され、大量のサプリメントが出回っていることから「義務化の方向で、せめて推奨」とすることを求めた。また、飽和脂肪酸についても、現在、飽和脂肪酸が多いヤシ油やパーム油などが「植物油」「植物油脂」なの一括的な名称で表示されることから、「推奨」とする必要性を指摘。飽和脂肪酸が減れば、逆にトランス脂肪酸が増える関係にあることから、片方だけ推奨表示とすることに疑問を投げかけた。
このほか、「糖類」についても、糖尿病予備軍が増えている現状から、急激に血糖値を増減させる糖(砂糖、果糖、ブドウ糖、麦芽糖など)について「推奨」表示に加えることを提起。機能性おやつが市場で増える中で、添加された栄養成分のみが強調され糖類が表示されないのでは、ミスリードになると警鐘を鳴らした。
糖尿病が強く疑われる人や可能性を否定できない糖尿病「予備軍」は、27.1%と推計され、成人の4人に1人以上あることが「11年国民健康・栄養調査報告」で明らかにされている。厚生労働省の11年患者調査の概況によると糖尿病患者の数は1270万人に達している。
河野康子委員(全国消費者団体連絡会事務局長)も「糖類は捨てがたい。糖類ゼロの商品が発売されるなど、糖類への消費者の関心は高い」として、「国民全体の利益にかなう方向で前向きに考えてほしい」と推奨とすることを求めた。
なぜ日本はできないのか 事業者の実行可能性より必要性を 石川氏、立石氏
議決権がないオブザーバーとして参加している石川直基弁護士は、「米国、カナダ、韓国で義務化が進む中で、なぜ日本ができないのか疑問」とし、「GDP(国内総生産)世界第三位の日本が、世界の最低ルールを今から作ろうとしているのはいかがなものか」と指摘した。消費者の視点、世界の競争政策の視点から「世界を率先するルール」が必要とし、義務化の範囲拡大を求めた。
栗山眞理子委員(アレルギー児を支える全国ネット「アラジーポット」専務理事)は、「オリンピックで多くの外国人が来る中で、自国で見られたものが見られず、日本はどうなっているのかと思われないように」と、国際水準の食品表示を求めた。
オブザーバー参加の立石幸一・JA全農食品品質・表示管理部長は、「米国や韓国は義務化でき、日本ができないというのは日本の企業が遅れているということ」と、「事業者の実行可能性より、消費者が必要な情報を提供する観点に立つべき」と訴えた。「米国や韓国が必要とする情報となぜ違うのか。やりたくないでは、大事なことが抜け落ちる」と義務化の拡大を要請。これに対し、澁谷いづみ座長(愛知県豊川保健所長)は、「世界で一番健康的な食生活をしているのは日本だといっても過言ではない。その国の特徴に合わせた情報提供をするべきではないか」と発言。立石氏が「若者はどんどん欧米型になっている。先に手を打つ視点が必要」と反論する一幕もあった。
6人の委員のうち池原委員が反対し、5人の賛成多数で原案通り了承された。
食品表示部会は16人の委員で構成され、その下に①栄養表示②生鮮食品・業務用食品③加工食品―の3つの調査会が設置された。16人の委員がほぼ2つの調査会の委員(1つの調査会の委員にしか選任されていない委員もいる)に選任されているが、池原委員のみ3つの調査会で委員に選任されている。
調査会の委員以外でも部会委員はオブザーバーとして参加することができるが、議決権はない。同日は今は議決中としてオブザーバーの発言を認めず後回しにする場面も見られた。調査会の議決は部会の議決に代えることはできないことが確認されている。
初回の議論は、わずか2時間。6人の委員の意見で重要な新基準がほぼ決定されてしまった。
これまで2期委員を務めていた主婦連合会の山根会長は、第3次食品表示部会に選任されなかった。消費者代表の以下のような意見は、全く食品表示部会に反映されない状況がある。実に問題だと感じる。
あまりにお粗末 世界水準の義務化を
山根香織・主婦連合会会長の話
外国に大きく遅れをとっている栄養表示の義務化を無理なく広げるために、環境整備として誤差の許容範囲を大きく認め、移行期間もたっぷりと取ったのではなかったのか。にもかかわらず、7年後の実施に向け、外国にまたもや大きく遅れる制度で良しとするのは、あまりにお粗末。日本の食を海外に強く売り込もうとしているのであれば、当然外国並みの栄養成分表示とする必要がある。必要性と消費者のニーズについてもっと議論をしてほしい。現在でも日本の企業は海外向けの商品には対応しているはずで、今こそ世界水準の義務化をきっちり進めるべき。
世界に劣る 最低限「糖類」「食物繊維」「全脂肪」「飽和脂肪」義務に
藤田哲技術士(農学博士)の話
アフリカ、北朝鮮、ラオスを除く世界の国の食品表示を調査した。東アジアでも、インド、インドネシア、ベトナム、タイ、マレーシアなどすべての国(北朝鮮、ラオス除く)が、すでに栄養成分表示を義務化している。日本ほど遅れた国はない。
新基準も世界に劣る最低水準。糖類の中の砂糖、ブドウ糖、果糖は簡単に分析ができ、加工食品の処方を入力すると計算される仕組みもできている。すべての国でやっていることを、GDP世界3位の日本がなぜできないのか。炭水化物の中の「糖類」(砂糖、ブドウ糖、果糖)と「食物繊維」、不飽和脂肪の量が把握できるよう「全脂肪」と「飽和脂肪」は最低限義務化すべき。
資料1、栄養成分の対象成分について16ページ
各国の義務化の状況
米国、カナダ
エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、ナトリウム、飽和脂肪酸、糖類、トランス脂肪酸、コレステロール、食物繊維、ビタミンA、ビタミンC、カルシウム、鉄
韓国
エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、ナトリウム、飽和脂肪酸、糖類、トランス脂肪酸、コレステロール
アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイ、ブラジル
エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、ナトリウム、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸、食物繊維
香港
エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、ナトリウム、飽和脂肪酸、糖類、トランス脂肪酸
台湾
エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、ナトリウム、飽和脂肪酸、トランス脂肪酸
オーストラリア、ニュージーランド、EU(15年まで義務化の猶予期間中)
エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、ナトリウム、飽和脂肪酸、糖類
中国
エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、ナトリウム、トランス脂肪酸(水素添加した油脂を使った食品)
日本
エネルギー、炭水化物、たんぱく質、脂質、ナトリウム