2016年5月29日日曜日

参議院付帯決議で、消費者者庁の徳島移転「慎重な検討」求める

消費者契約法改正案と特定商取引法改正案が525日に成立した。参議院の消費者契約法付帯決議には、消費者庁、消費者委員会、国民生活センターの徳島県への移転は「本法等消費者庁所管の法令の運用に重要な影響を与えかねない」として、「慎重に検討すること」が明記された。異例の措置で、参議院として消費者庁等の徳島移転問題に、懸念の意思を表明した。


消費者庁、消費者委員会、国民生活センターの徳島移転「法令運用に重大な影響与えかねない」


 消費者庁、消費者委員会、国民生活センターの地方移転は、ICT(情報通信技術)の試行を行い、結論を8月までに出すこととされている。

通常国会閉会後、国会審議を経ないまま、与党のみの判断で結論が出される可能性が高い。

この問題を巡り、付帯決議に何をどう書き込むか、参議院地方・消費者問題特別委員会の採決の前日夜遅くまで、与野党間でギリギリの調整が行われた。

 「この法案が成立したとしても、消費者庁、消費者委員会、国民生活センターが徳島に移転して機能が後退したのでは、意味がなくなる。ここは行動しなければならない」。最後まで調整に当たった民進党の森本真治野党筆頭理事は、こう話していた。

 25日の成立を逃すと、確実に今国会で成立させることができるかどうか見通せなくなる。
 こんな状況の中で20日の朝まで、その日採決するかどうかが決まらなかった。採決を駆け引きに最終調整が行われた。

 参議院の付帯決議には消費者庁、消費者委員会及び国民生活センターの徳島移転については、本法等消費者庁所管の法令の運用に重大な影響を与えかねないため、慎重に検討すること」が盛り込まれた。


参議院が国会の意思として

移転に懸念を表明


森本真治野党筆頭理事は、「反対と入れることはできなかったが、国会の意思として、懸念を持っていることが示された」と森本氏は語った。

同日、参議院地方・消費者問題特委の審議では、消費者庁等の移転問題でも質疑が行われた。


消費者庁の行政処分事業者

64%が関東圏に集中

 
 森本真治氏は、同日、特定商取引法の行政処分件数について、関東圏の事業者が占める割合を質問。消費者庁創設後の099月から166月までに消費者庁が行政処分をし、事業者所在地が判明しているものは89件。このうち57件、64%が関東圏の事業者だった。内訳は、東京都51件、千葉、神奈川各2件、茨城、埼玉が各1件。

 行政処分には事業者への立入調査や徴収をする必要がある。
森本氏は、「徳島に移転した場合に、しっかり対応できるのか。東京に出張するのか」と追及。河野消費者相は「テストをするか慎重に検討している」と回答した。
「テストをすること自体に違和感ある。失敗した場合に被害に遭った人はどうなるのか、大変危惧する」と、試行自体への懸念を森本氏は示している。


「移転ありきにしか見えない」

民進、安井美沙子氏

 
 同委理事の民進党、安井美沙子氏は、「徳島関係者以外で積極的なのは河野大臣だけ。多くの人が消費者庁等のあるべき機能が後退することを心配し、大反対をしているのに、なぜここまで突っ張るのか理解できない」と発言。地方から提案を受けた後の検討過程が「し意的で、大きな問題がある」と指摘した。

地方から提案があった7つの機関のうち、特許庁、中小企業庁、観光庁、気象庁は早々に地方移転の対象から除外されている。

安井氏は、中小企業庁の地方移転を断念した理由に、「中小企業庁長官は国会答弁が多い、他省庁との連携もある」ことを挙げた石破茂地方創生相の国会答弁を引用。
「全省庁に消費者行政の司令塔機能があり、事故があれば緊急に担当省庁や官邸と連携しなければ仕事ができない消費者庁は、なぜ、移転ができないという判断にならないのか」と政府判断が整合性を欠いている点を批判。「担当大臣の意欲や、当該自治体の政治力で決まっていく」のは、大きな問題があると指摘した。  
さらに、これまで河野消費者相が答弁の中で「できると思っているからやる」「できるならば移転をする」などと発言していることも問題視。「どう見ても、移転ありきにしか見えない」と、現時点での移転に対する見解を求めた。
河野消費者相は「テストの結果を見てしっかり判断していきたい。アリバイづくりのテストではない。地方からの提案に真摯に向き合ってどういう課題があるか整理し、課題が解決できるものか考えて判断していく」と、これまで通りの答弁を繰り返している。


「消費者庁、役割果たせるかが大事」

河野消費者相が答弁


 これに対し、安井氏は、「地方が各省庁の仕事の本質や業務の詳細を理解しているとは思えず、すべて検証すればいいというものではない」と反論。「消費者行政、働き方改革、行革、独法改革、地方創生の命題の中で、大臣の優先順位はどこにあるのか」と追及。 

河野消費者相は、「消費者庁に期待されている役割を果たせるかどうかが一番大事。移転で地方創生が進むことがあっても、消費者庁が期待された役割を果たせなければ、移転するというわけにはいかない」と答弁した。

「中央に残さなければならない機能は何だと考えているか」との質問には、「国会関連業務は難しい。難しいものは7月のテストでは置いていく」としながらも、「最初から無理だというものは、なるべく少なくして考えたい」と回答。7月の検証の対象にする業務は、検討中と説明した。

安井氏は、国民生活センターの相談業務1つを取っても、相談の解決のために事業者を呼んで、年間200回以上対面で交渉している。商品テストで商品に欠陥が見つかった場合、事業者を呼んで現物を見せ説得する必要がある。事業者に徳島まで出て来いというのは難しい。危機管理や、見解が対立する各省庁との調整などがテレビ会議ではできないことは、実証しなくても分かり切っていると、大臣に理解を求めた。


「無理を通せば道理引っ込む」

民進、寺田典城氏


 18日には、民進党の寺田典城氏が、「無理を通せば道理が引っ込むという慣用句を知っているか」と質問。これに対し、河野消費者相は「試験をして検討して決めるということで、ニュートラルにやっていこうとしている」と回答した。

 寺田氏は「第三者から見ると、ニュートラルに見えない」と反論。
「無理を通すと理にかなったことが行われなくなる。大臣になったら、なぜ、こうもかたくなになるのか。ちょっと残念」とも述べている。


 徳島県出身の自民党、三木亨氏から、来てみなければわからないとの意見があったことから、安井氏は同委員会での現地視察を提案。河野消費者相には、今までの蓄積を無にすることのないよう、さらに、前に進めていくべき課題が多く残っている現状を念頭に置いた懸命な判断を求めた。

2016年5月17日火曜日

国民生活センター研修試験移転、参加者の7割が徳島県 

 国民生活センターの研修事業の試験移転が5月9日から、徳島県鳴門市の鳴門合同庁舎で始まった。参加者は68人のうち、徳島県内の職員が7割を占め、県外からの参加者はわずか19人にとどまった。しかも、試験地である徳島県の飯泉嘉門知事は、事前に各都道府県知事に、徳島県での研修を選択するよう依頼文を出している。河野太郎消費者相自身が積極的な受講を呼びかける文書も併せて送付されていた。参加人数自体も検証の対象といえ、試験自体の公正性を疑問視する指摘が出ている。


県外からの参加者わずか19人

 消費者行政職員向け、消費生活相談員向けの講座が来年2月まで(←後述)14回予定されている。
 5月9日から11日までの行われた初回研修参加者の内訳は以下。

    石川  1
    滋賀  1
    京都  4
    大阪  1
    兵庫  1
    奈良  1
    岡山  2
    山口  3
    徳島 49
    香川  1
    愛媛  1
    福岡  1
    佐賀  1
    鹿児島 1
    計  68



参議院本会議で森本真治氏が質問「機能の維持向上は、絶対条件」

 5月11日の参議院本会議で、民進党の森本真治氏(参院地方・消費者問題特別委員会野党筆頭理事)は、研修参加者について、徳島県とそれ以外の人員を質問。
 
 これに対し、河野太郎消費者相は、「徳島県内から49人、徳島県外から19人がそれぞれ参加した」と答弁している。

 森本氏は、「徳島県の人ばかりでは、十分に検証はできない」と指摘。
 政府が示した政府関係機関移転基本方針では、「全国を対象とした国の機関としての機能の維持向上が期待できることが絶対条件」として、「機能が向上していくとの手ごたえを感じているのか。さらに、移転先以外の地域から理解が得られると思っているのか」とただした。
 これに対し、河野太郎消費者相は「参加者の意見などを踏まえ、国民生活センターや消費者庁に期待されている役割を果たせるかどうか、検討を進める」としか答えていない。

徳島県知事が、各地の都道府県知事に参加を依頼河野大臣は、積極的な受講に格別な配慮を依頼


 この5月からの研修に当たり
 徳島県知事は
 3月29日付で「研修の一部を徳島県内で試験的に実施することになった」として、
「ぜひとも、本県で開催される研修を選択するよう」お願いする文書を出している。

 添付された3月28日付の河野太郎大臣名の文書は
「徳島県で実施する研修を積極的に受講し、意見等を寄せるよう格別の配慮」を求めている。


「大臣の参加要請、テスト信用されない」参院地方・消費者特で大門実紀史氏


 共産党の大門実紀史氏は、同日の参議院地方・消費者問題特別委員会で、徳島県知事と河野消費者相が、各都道府県知事に事前に参加を依頼する文書を出した問題を追求した。

 大門氏は「参加者の数も重要な試験の要素。大臣が特別に参加を要請するのは問題がある。公正なテストとは言えないのではないか」と、文書を出した趣旨を質問。消費者庁の川口康裕次長は、徳島県知事の文書については「承知しておらず、コメントは差し控えたい」と回答。大臣の文書については「趣旨を理解いただき、意見を寄せることをお願いする趣旨で出した」と説明している。

 大門氏は「普通に考えて、こんなことをやってはいけない。参加があったからといって徳島で十分研修をやっていける根拠にならない。このテストがすべて信用されないということになる」と指摘。

 さらに、「消費者庁は新しい省庁だが、中央省庁との連携が必要で、調整が求められる事業者や消費者団体の本部も首都にある。国会対応もしなければならない点では、当然、移転対象から外されるべきもの」との見解を示した。

「観光庁、中小企業庁、気象庁、特許庁は外したが、荒唐無稽な話が出てきても、国として外そうとしなかった。やらせのようなテストをやってでも、何とか移転するというのは、あまりに上から目線」と、石破茂地方創生相の見解を求めた。

「危機管理、国会対応部門移すことはない」
 石破地方創生相が明言
これに対し、石破地方創生相は「参加していただかないと判断しようがない。河野大臣としても予断を持っているわけではない」と答弁。「危機管理部門、国際的な交渉事、国会対応部門が移ることはない」と、初めて明言した。

 大門氏は「わざわざ出てくれというのは予断を持っているから。何としても国民生活センターは持って行こうとしているのではないのか」とさらに追及。「多くの消費者団体が反対している中で、皆が喜ぶ省庁移転にしなければならない」と述べた。

 石破地方創生相は「みんなが喜ばないようなことをやってはならない。河野大臣が予断を持って文書を書いたとは思っていない」と答えている。

            ◇    ◇

結論は8月末なのに、研修は来年2月まで「怪」


 政府の政府機関移転基本方針では、検証を行い8月末までに結論を出すとしているが、

 なぜ、お試し期間が来年2月なのか。そのこと自体、あまりにおかしくはないか。

 なぜなら、国民生活センター相模原事務所が行う研修と商品テストの試験移転が、本年1月、河野消費者相の突然の発言で決まってしまっているためだ。
消費者庁の幹部にも、国民生活センターの幹部にも相談されることなく、徳島県知事が相模原事務所視察後に大臣を訪れた際に突然、決定されている。

 しかも、徳島県は、もともと同センター相模原事務所は誘致の対象としていなかった。移転提案の締め切りは昨年8月末だが、昨年12月に河野消費者相が徳島県を視察した際の報道資料で、これも突然、移転対象とされていた経緯がある。

 「予断を持って、何としても国民生活を移転させようとしている」と批判されても致し方ない経緯がある。


鳴門合同庁舎、国民生活センター研修棟より7年も古い


 前回ブログにも書いたが
  http://syohisya.blogspot.jp/2016/03/824.html

 国民生活センター相模原事務所には、立派な研修棟がある。
 1980年築。180人が収容できる講堂のほか、中会議室、研修室、談話室、図書資料館、宿泊室、食堂、教養娯楽室などが整備されている。宿泊費用は4000円だ。
 
一方、鳴門合同庁舎は1973年築で7年も建物が古い。この4階フロアを研修用に間仕切りのための改修工事を行い、鳴門市内のビジネスホテルを使ってなんで移転する必要があるのか。

 試験をしていること自体に、大義名分がない。
税金の無駄遣いもあるが、そのことにかかわって国民生活センターの業務負担が増えていること自体、消費者の利益を損なう。


8道県は前日宿泊必要、24都道県で交通費増


 各地の消費生活センターから鳴門合同庁舎に午後1時までに着くと仮定をした場合、前泊が必要になる都道府県は8都道府県、相模原事務所で実施するよりも宿泊費を含めて交通費が増えるところは、24都道府県になる。

 こんなことが、3月22日の衆議院消費者問題特別委員会の質問でようやく明らかにされている。

 本来なら、研修施設の移転で、全国からのアクセスなど当初に調査して公表すべき内容ではないのか。このことからも、やり方があまりにおかしすぎる。



研修施設移転、政府基本方針にも整合性欠く「全国的にみてすぐれた取り組みとして認知されているのか」



 政府の政府機関移転基本方針は、

 研修施設については「その地ならではの研修内容(全国的にみてすぐれた取り組みとして認知され、かつ全国に汎用性があるもの)を勘案して検討するとしている。

 例えば、教育研修センターは、「全国の教員にとって参考となる先進校を有し、地元の学校でのフィールドワーク等を活用した研修を実施することが可能なもの」を移転対象としている。

 全国の消費生活相談員の数は3367人。
徳島県内の相談員は43人(2015年度、私はこの数字自体にも疑問があると前回のブログで書いている)。

 全国の消費者行政職員は、全国に5158人いるが、徳島県は67人。

 徳島で、果たして、他の相談員や行政職員の参考となる全国的に見てすぐれた取り組みが認知されているのか。そして、それは汎用性があるのか。

 私はこの分野を専門的に取材して10年になるが、答えは否だろう。(もちろん、徳島県内で頑張っている相談員さんたち、職員さんがいて、その真摯な取り組みを否定するものではない。頑張っている分野もある)。


研修の交通費と宿泊費、相談員分は国が全額負担、行政職員は半額負担増加分は税金



相談員は、2017年度までは宿泊費と交通費を全額、地方消費者行政活性化基金が活用できる。
行政職員は単年度の交付金から半額利用することができる。
交通費や宿泊費が増加すると、税金の負担分が増加する仕組みに今はなっている。

今後、国がその費用を出し続けるのか。それも考慮材料の一つとして当然事前に確認しておく必要がある。



「評価、私がやる」河野消費者相が発言公正、公平、透明性がある評価必要



 政府の基本方針は、中央省庁が移転する場合の視点として「現在と同等以上の機能の発揮が期待できるか」「なぜ、そこかについて、移転先以外を含めた理解が得られるか」。

などが明記されている。


 これらの要件を十分に満たしているか客観的に検証評価する必要があるが、10日の閣議後会見で、その評価は「私がやる」と河野消費者相は答えている。


 予断を持ってやらせのようなテストをしているのではないかとの指摘が出ている中で、
すでに、河野大臣自身が、評価される側にあるのではないのか。

 誰もが納得できる検証と評価が行われる必要がある。

 最近の答弁が「総合的に判断する」に変わってきているが、
一部機能が低下しても、他に良いところあればいいと結論付けるようにも受け取れる内容だ。

 冗談ではない。
どの機能1つをとっても、今の機能が後退するようなことは許されまい。