新聞の訪販トラブル 主な相談事例
◇判断力が低下した90歳代男性に100歳を超える6年間の契約をさせ、解約を申し出ると景品の掃除機代約6万円を請求
(15年4月 近畿 90代男性)
◇認知症70歳代女性に5年間契約、解約申し出ると米20キログラム、洗剤セット3セットの景品返還請求
(15年5月 近畿 70代女性)
◇80歳代女性宅を新聞勧誘員が8カ月間に6回訪問、そのたびに半年から1年の新聞購読を8回、計6年分を契約
(15年4月 南関東80歳代女性)
◇断ったが「小学校に上がる子どもがいる」と無理やり契約書を書かされ、恐くなり契約
(15年3月 南関東 90歳代女性)
◇3カ月だけとしつこく迫られ契約したが、販売店は3年契約だと言い張っている。2紙の新聞代の負担が重い
(15年5月 南関東 80歳代女性)
◇何度も断ったが、2年先2年間の購読を勝手に契約書に記入し、控えを置いて行った
(15年5月 近畿 80歳男性)
◇認知症気味の父に契約させないように念を押していたが、2年後から2年間の契約をまたさせていた
(14年4月 近畿 80歳代男性)
◇過去の購読のお礼だと玄関を開けさせ、景品を置いて契約書を書けと言い張る
(15年6月、九州北部、40歳代女性)
新聞の苦情相談件数の推移
新聞の相談全体 うち訪問販売 60歳以上の相談割合と相談者の平均年齢
05年度 12080件 10345件 35.6% 51歳
06年度 11637件 9758件 37% 52.1歳
07年度 11538件 9767件 41% 53.7歳
08年度 11379件 9591件 43.5% 55.2歳
09年度 12333件 10427件 45.8% 56.6歳
10年度 12640件 10790件 49.1% 58.5歳
11年度 12620件 10702件 52.4% 59.9歳
12年度 11766件 9949件 55.5% 61.7歳
13年度 12200件 10257件 57.9% 62.7歳
14年度 11907件 10048件 60.6% 64.3歳
(15年6月18日時点で取材)
訪販トラブル1位 いまだ「新聞」
訪問販売のトラブルの1位は、14年度も新聞だった。
商品別では10年連続1位だ。
苦情相談件数は1万件を超え、相談者の平均年齢も64歳を超えた。
いまだに90歳代の高齢者に100歳を超える6年間もの長期契約をさせ、
解約を求めると景品の掃除機代を請求するなどの悪質な勧誘が行われている。
日本新聞協会の認識
相談現場とかい離
6月10日、特定商取引法を見直している消費者委員会特商法専門調査会のヒアリングで、
日本新聞協会理事の山口寿一・読売新聞東京本社社長は、
「苦情に対し誠実に対応していて相当大きな様変わりがある」と発言。
同協会販売委員会委員長の寺島則夫・毎日新聞東京本社販売局長も、
「新聞セールスインフォーメーションセンターへの営業マンの苦情はこの5年間で半減し、 新聞販売のイメージは様変わりしている」
「ガイドラインで業界としてしっかり対応している」と述べている。
しかし、これらの認識は、相談現場の受け止めとはかい離がある。
増田悦子委員(全国消費生活相談員協会専務理事)は「ガイドラインを示したが、目に見え た効果がない。他社との内容の差で勝負すべきではないのか」と反論。
国民生活センターの丹野美絵子理事は、「ガイドライン制定後も相談件数は減っていな い。契約期間が短く、景品の額も少なくなったが、未だに長期契約や解約申し出時の景 品返還請求は行われている。契約者が死亡したり入院した場合でも、家族がいる場合は 解約を拒否するケースが多数ある」。「自宅が知られているから怖いため契約した」と いう声があると報告している。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
日本新聞協会のガイドライン「守られていない」
相談員の生の声にどう応えるのか
「テレビや布団、掃除機などの景品が、洗剤や米、カタログに変わっただけで、ガイドラインはほとんど守られていない」
「契約時に考慮されているとは思えず、契約者本人が申し出ても対応されない。センターが販売店とのあっせん交渉でガイドラインの存在を指摘すると配慮される程度。機能しているとは言えない」
「認知症の場合は解約に応じるが、それ以外は相変わらず契約を盾に強気。認知症でも診断がないと争いになることがある」
「勧誘員が辞めたので当時の事は分からない。マージンも返らないので簡単には解約できないと言われた」
「景品で誘って、数カ月交代で取ってもらう勧誘自体がおかしい」
「そもそも長期購読者を大事にすべき」
「日本新聞協会幹部が分かっていないとしたら、そのこと自体が問題。販売店が別会社で強制力があるのか」
「ヒアリング内容と相談現場の実態が全く異なる。特に高齢者への不招請勧誘はすさまじい」
「相談件数をわずかと判断した時点で、改善する気はないように受け止められる」
(日本新聞協会の提出文書で、新聞販売所は全国に約1万8000件あり、1販売所当たり1年間で0~1件と非常にわずかな相談件数になるとした点への意見)
「20数年相談員をしてきたが、昔も今も新聞はずっと苦情相談件数が上位にあることをしっかり認識してほしい」
「トラブルのほとんどは全国紙。景品で誘って3紙交代で取ってもらうことにプライドはないのか。乗り換えを勧めるのは業界にとってもよくない」
「紙面の内容で営業し、長期顧客を大切にすべき」
「字が読みにくくなった高齢者がいつやめてもいいではないか。期限の定めのない契約で何が不都合なのか」
「試売紙を入れて連絡があった人に取ってもらう勧誘方法でなぜだめなのか」
「日本人は面と向かってはっきり断りにくい。考えておくというのは断っているということではないのか」
これら相談員の生の声に、どう応えるのか。10年以上苦情相談件数が減っていない現実に、まずは真摯に向き合い、自ら襟を正すべきではないのか。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
国民生活センターが13年8月に公表
日本新聞協会に改善要望
国民生活センターは13年8月、「12年先まで契約させ、解約を求めると景品でもらったテレビを買って返せと言われた」などの悪質な勧誘事例を公表。
日本新聞協会に対し
高齢者の契約や長期契約、一定期間先から契約させる先付け契約の基準作成
契約者が解約を望んだ場合(契約者の入院、死亡、失業、介護などの家庭の事情、加齢にともなう視力の衰えなどの場合)は、解約に応じるようルールを作ることを要望した。
この発表も、新聞各紙はほとんど報道していない。
日本新聞協会は同年11月、解約に応じる場合を整理したガイドラインを作成
ガイドラインには、認知症など判断力が不足した状態で契約した場合は直ちに解約に応じること、新聞公正競争規約の上限(6カ月の購読料×8%、月額3925円の場合は1884円)を超える景品を提供した場合は、返還請求してはならないことなどが盛り込まれている。
ただし、高齢者契約、長期契約、先付け契約の記述は見られない。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以下事例の詳細
90代高齢者に長期契約
解約に景品の掃除機代請求
今年1月、近畿地方の90歳代の男性に、7月から6年間もの新聞購読を契約していたことが分かった。契約期間は100歳を超える。4月に息子が契約書の控えを見つけた。1人暮らしで病気を患い判断力が低下し、100歳を超える契約をしたことを本人は覚えていない。息子が販売店に解約を申し出たところ、「景品の掃除機は6万円ほどしたので6万円支払わなければ解約できない」と言われたという。
4月には、同じく近畿地方の認知症の70歳代女性が5年間の契約をさせられている。認知症の診断を受けており、息子が解約を申し出たところ、渡した景品を返せと言われた。景品は、米20㎏、洗剤3セット。消費してしまったがどうしたらよいかという相談だ。
8か月間に契約書8枚
半年、1年契約で6年分
1枚の契約書の契約期間は1年以内だが、短期間の複数回契約で6年分の契約させている手口も出ている。
南関東地方の80歳代女性は、判断力が低下し認知症気味だ。新聞勧誘員が14年度の8か月間に6回訪問。そのたびに半年間、1年間の新聞購読を8回契約させていた。契約期間は、15年4月から2021年3月末までの6年間に及ぶ。
高齢者に無理やり契約
2紙配達で重い金銭負担
高齢者がしつこく勧誘されて、仕方なく契約し、余計な金銭負担を強いられている。
2世帯住宅に住んでいる南関東地方の90歳代の女性は、昼間1人でいるときに新聞を執ように勧誘された。他紙を購読しているからと断わると「学校に上がる子どもがいる。契約してくれなかったらお金がもらえず困る」と言われ、さらに断っても無理やり契約書を書かされたという。販売店からの確認の電話にも「断ると怖い目に遭うのではないか」と思い、返事をしてしまった。二重配達になることを息子に叱られ、消費生活センターに電話している。
南関東地方の80歳代女性は、3カ月だけとしつこく迫られ仕方なく契約したが、3カ月経っても新聞が配達される。2紙配達に妹が気づき、問い合わせたところ、販売店は、3年契約だと言い張っているという。洗剤を受け取ったものの、2紙の新聞代は負担が重いと訴えている。
15年5月には、近畿地方の80歳代の男性から、「何度も断ったにもかかわらず販売員が勝手に2年先から2年間の朝刊の購読を契約書に記入し、控えを置いて行った」という相談も寄せられている。
購読お礼と玄関開けさせ
景品置いて 契約迫る
6月になって、九州北部からは、購読のお礼と玄関を開けさせ、執ように契約を迫ったという相談が入った。40歳代の主婦は、2年前まで購読していた販売店からあいさつにきたというので玄関を開けた。景品の洗剤やビールが余っているので配っていると言われたが、「そんなことをされても新聞は取らない」と断った。それでも今までのお礼なので重ねて言うので、「お礼なら」と応じると景品を玄関に置き、契約書を書けと言い張ったという。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
クーリング・オフは苦情
日本新聞協会が、1万件を超える苦情相談件数について、苦情の中身が明確でないとして「どう判断したものか苦慮している」(寺島販売委員会委員長)と述べた点にも、相談現場から疑問の声が上がっている。
同協会は、提出文書で「クーリング・オフ通知書の書き方を知りたい」といった事例は問い合わせに分類されるべきと主張。新聞販売所は全国に約1万8000件あり、1販売所当たり1年間で0~1件と非常にわずかな相談件数になるなどと分析している。
寄せられた相談は、現場の相談員が「苦情」か「問い合わせ」か判断して分類している。クーリング・オフについても、問題のある勧誘が行われたと客観的に考えられる場合は苦情とするルールだ。このため、クーリング・オフが一定数あれば、問題がある事業者であることが推定できると相談員は説明する。