ジャパンライフ問題を総括 ①
なぜ被害拡大防げなかったのか
安愚楽牧場の教訓生かせず
ジャパンライフの消費者被害額は約1800億円。1987年に破綻した豊田商事は約2000億円。2011年に破綻した安愚楽牧場は約4200億円。消費者庁は、安愚楽牧場の破綻で国家賠償請求訴訟を提起されながら、なぜ、過去の教訓が生かせず、またしても甚大な消費者被害を生じさせてしまったのか。今もまた、同様の大きな消費者被害が発生しようとしている。これまで取材から問題点を提起する。(相川優子)
2014年9月、10月なぜ行政指導
「本件の特異性」要回収文書、課長レク資料
ジャパンライフに天下った消費者庁元課長補佐が作成
2017年4月18日の衆議院消費者特で、民進党の井坂信彦氏が「本件の特異性」と題する文書の存在を明らかにして以降、独自に取材を進めてきた。「本件の特異性」と題する文書、独自に入手した課長レク資料、審議官レク資料ともにジャパンライフに天下った水庫孝夫消費者庁取引対策課元課長補佐が作成したものだった。
ジャパンライフへの相談件数は2010年以降毎年140件を超える。なぜ、2014年9月と10月に行われた行政処分は、指導にとどまったのか。
「処分は指導が適当」
元課長補佐が報告書
まさに、ジャパンライフに天下った水庫元課長補佐がジャパンライフへの相談内容の調査を担当していた。2014年7月31日付で、水庫名で「事前調査報告書」を着任して間もない山田正人課長に提出している。
結論は、「記載不備、不交付及び書面閲覧不備の疑いを持って処分乃至は指導を行うことが適当」とされていた。「業務及び財産の状況」を記載した書面(場合によっては、早急に作成するよう指示の上)を確認することが一方では急務ともしている。
2012年度以降の335件の相談を対象にしているが、消費者聴取は2件(本人1件、本人以外1件)しか行っておらず、「相談内容からは行為違反は確認できなかった」としている。
天下りで手心加えたのか
2013年10月調査報告と差
2013年10月に、別の職員が調査した「予備調査報告書」が当時の山下隆也課長に提出されている。この時点で苦情相談の大半がレンタルオーナー契約等に関するもので、ジャパンライフが「高齢者を勧誘し、高配当をうたい、多額の投資をさせている」ことを指摘。契約金額が数百万から数千万、1億円近くに及び破綻した場合は甚大な被害が予想されるとして、「預託法の処分事案として本調査に移行することとしたい」と報告されている。
報告内容にあまりに違いがある。水庫元課長補佐が違反行為なしと報告したこと自体に天下りの影響がなかったのか、今後調査が求められる。
「行為違反はない」
自ら2つの文書で説明
水庫元課長補佐が作成した2014年7月31日付課長レク資料によると、水庫元課長補佐は2つの文書を用いて、課長に説明をしている。「事前調査報告書」と、要回収とした「本件の特異性」と題する文書だ。レク資料を含め、すべて水庫元課長補佐が作成したことが確認できた。
本件の特異性と題する文章は、検証方法の選択を課長の判断にゆだねているが、「※行為違反なしを前提」であることが強調されている。「※政治的背景による余波懸念」とも記載されているが、具体的な内容の記載はない。
水庫元課長補佐は、課長レクの中で、事前調査では預託法上は、書面交付や書面不備、閲覧不備の疑いにとどまり、特商法上も含め行為違反の確認は取れなかったと報告したとしている。担当弁護士から立入検査の方がリスクが低いと助言されたと記載しているが、違反行為がない場合に、立入検査に入ることを弁護士が是とするのだろうか。この点も疑問が残る。
担当者交代で再調査
立入検査に方針転換
山田課長はなぜ、指導を選択したのか。一連の取材の過程で、当時山田課長に話を聞いている。「水庫課長補佐からは、預託法は2013年9月に政省令を改正し家庭用治療器を適用対象に追加したばかりのため、ジャパンライフにまだ自覚されていない、特商法は違反認定する事実がないと報告を受けた。行為違反がないにもかかわらず立入検査をすることに違和感があった」と説明。このために、まずは指導が適当と判断したという。
しかし、水庫元課長補佐が2015年3月末に退官して以降、方針は大きく転換されていた。立入検査を決めたのも山田課長だった。
水庫元課長補佐が退官するのに伴い、3月以降担当者が交代。4月になり全く報告の内容が異なり指導もされていないという報告を受けた。「方針を転換し立入検査の準備を進めていたところだった。政治的圧力はなかった」とも話した。立入検査に入る矢先に突然、異動になっている。
立入検査から処分までなぜ1年3カ月
ジャパンライフ立入検査で
元課長補佐の顧問契約書
2015年9月10日、消費者庁はジャパンライフの立入検査に入るが、ここで水庫元取引対策課長の顧問契約書が見つかった。よりによって自らが指導してきたはずのジャパンライフの顧問として天下っていた。
消費者庁には激震が走ったはずだ。5カ月も調査し天下りを認定しなかった問題は後述する。
支離滅裂 1回目の業務停止命令
なぜ3カ月、勧誘目的不明示
最大の問題点は、立入検査から2016年12月16日の1回目の行政処分まで1年3カ月もかかり、勧誘目的不明示等しか違反を認定しない業務停止命令3カ月という支離滅裂な内容だったという点だ。違反は、預託法は書面記載義務違反等、特商法は勧誘目的不明示しか認定されていない。腰痛も治るなどと言って勧誘している事例が含まれているにもかかわらず、不実告知も認定されていない。しかも違反認定事例は2015年1月~3月だ。
レンタル収入、支払の10分の1
立入検査で把握できたはず
ジャパンライフの破産手続きの中で、ジャパンライフの預託商法は2003年から始まり、最初から自転車操業の構造だったことが明確にされている。1回目の債権者集会(2018年11月12日)では、2017年後半にはレンタルオーナーに支払うべき金額のほぼ10分の1しかレンタルユーザーの収入がなかったことを報告されている。
2017年3月10日の衆院消費者特で国民民主党の大西健介氏が、「2015年10月には現物まがいであることを知っていた」「毎月のレンタル収入5000万円、レンタルオーナー支払額5~6億円、新規契約少なくとも20億円、被害額約1400万円と想定していた」という数字を質問の中で明らかにしているが、まさにこの数字を立入検査からほどなくして消費者庁は把握していたと思われる。
執行担当者であれば、胃が痛く夜も眠れない数字のはずだ。しかし、1年3カ月もかけ、不実告知も認定せず3カ月の業務停止にとどめたのは、あまりに問題がある。これで幕引きを図ろうとした、あるいは、一定期間恣意的に放置したのではないのかと疑いたくなるほどお粗末だ。しかも、自転車操業であることも公表していない。
内規に7カ月ルール
立入検査から公表まで3カ月
当時は、内部規定に着手から公表まで7カ月ルールがあると指摘された。2014年度以降業務停止命令3カ月の26業者の分析を求めたところ、1年超1事業者、6カ月から1年以下6事業者、6カ月以下19事業者だった。
7カ月ルールでは、「立入検査から公表までは3カ月」。1カ月対応が遅れれば、被害額が何十億円も広がる最優先で取り組む事案だったはずだ。消費者庁は一体何をやっていたのか。
レンタル事業の収支
破綻後も黒塗りのまま
情報開示請求で、同日記者に配布された説明資料と、ほぼ同様の資料の存在が確認された。
1枚だけ多く、最後の22ページ目に「レンタル事業における売上等」として、レンタルの売上高とレンタルオーナーへの支払額が記載されている。本紙記者が初回記者会見時から質問し続けてきた数字が書かれていると見られる。破産手続き開始決定後に2度目の開示請求をしたが、明らかにされないままだ。不服審査請求も棄却された。迅速に悪質性を明確にできる処分をして、その時点でこの数字を公表し、多くのマスコミが報道していれば、被害はここまで拡大することはなかった。
5カ月かけなぜ、天下り認定しなかったのか
「自らの調査で天下り認定できた」
消費者庁は、天下りを認定することが可能だったにもかかわらず、5カ月も調査して天下りは認定できなかったと報告している。内閣府再就職等監視委員会の調査では2カ月弱で天下りを認定している。
しかも、消費者庁は違反を認定できなかった理由に、「現職中に元課長補佐がジャパンライフトップに面談を求める決裁文書(伺い書)を入手したが、この決裁文書はジャパンライフ職員が元課長補佐から受けたストレスを解消するために偽造したと供述し、その可能性は否定できないものだった」と、あきれた内容を挙げていた。
本紙が内閣府再就職等監視委員会に情報開示請求をした結果、伺い書は2通あった。面会日の変更を求めていた。同委調査報告書には「消費者庁が調査でいた資料のみで違反認定は可能」と明記されていた。人事担当者が3回目のメールで進行を察知し違反しないよう指導すべきだったとも指摘している。
消費者庁が顧問に就任していた事実を内閣府再就職等監視委員会に報告したのは、1カ月後の10月7日。消費者庁が国家公務員法に基づく「任命権者調査」に入り、「違反を認定できない」とする調査結果を報告したのは2016年2月1日。監視委が「委員会調査」を決定したのは、わずか3日後の2月4日。3月24日には違反認定を公表し、「調査に5カ月近くを要し違反を認定できなかったのは遺憾」と遺憾の意を表明している。
調査を引き延ばし、組織的に隠ぺいをはかったのではないかという疑念がある。また、消費者庁が働きかけをして、元課長補佐が顧問を退職したのは2016年5月10日。これまでの期間、意図的に行政処分を遅らせたのではないのか。影響がないか検証する必要がある。
(続きは次号)
日本消費経済新聞12月5日号
【ジャパンライフ問題の経緯】
青字=再就職等監視委員会の公表資料通り
赤字=消費者庁・委員会の動き
2012年12月初旬 B社に対し「あと2年で定年退職」「顧問になるのはどうか」発言
2013年1月下旬 所属課長が注意
2013年9月 預託法政省令改正 家庭用治療機器を追加
2014年7月 山下隆也課長から山田正人課長に
8月 A(ジャパンライフ)社との接触開始。A社に対して何度も「定年退職」「最後の仕事」と告げる
2014年9月、10月 ジャパンライフに特商法、預託法で文書による行政指導
12月初旬 A社に、私用メールアドレス、電話番号を伝える
12月下旬 行政指導中に利用していたツール・資料等自宅に持ち帰り
2015年1~3月 <1回目の業務停止命令違反事例はこの期間>
3月初旬 A社トップの面会要求。社内で面会「伺い書」作成・決裁
3月5日 消費者委特商法専門調査会で見直し始まる(訪販登録制、勧誘規制検討)
3月末 水庫課長補佐が定年退職
4月1日 水庫元課長補佐経産省で再任用
6月15日 読売新聞「特商法専門調査会で委員笑った」抗議文
6月30日 水庫元課長補佐が再任用辞職
7月10日 元課長補佐(水庫)、A社(ジャパンライフ)に顧問として再就職
7月2日 特商法改正で自民党内閣部会・消費者問題調査会合同部会
(事業者のみヒアリング、委員笑った動画)
8月28日 特商法中間整理(勧誘規制方向性示せず、一致点目指し議論)
2015年8月28日 山田課長突然異動(消費者団体が抗議文)
ジャパンライフの立入検査の準備を進めていた
桜町道雄課長が着任
2015年9月10日 ジャパンライフ立入検査
★天下り発覚 水庫孝夫元取引対策課長の顧問契約書が見つかった
10月7日 消費者庁が再就職等監視委員会に報告
「国家公務員法求職規制違反の疑いあり」調査開始
12月14日 河野太郎消費者担当相徳島視察
12月24日 特商法専門調査会報告書
「訪販、電話勧誘事前拒否者への勧誘規制議論なかったことに」
2016年 2月1日 消費者庁「違反認定できない」とする調査結果を提出
3月4日 特商法改正案国会提出
3月14日から
5日間、徳島県神山町で移転第1弾試行
3月24日 内閣府再就職監視委、「違反認定」し公表
消費者庁の対応に「遺憾」
5月25日 改正特商法成立
2016年6月末 佐藤朋哉課長に
7月4日から 約1カ月 徳島県庁で移転試行第2弾
執行経験ない佐藤課長、着任早々徳島に
★2017年正月号(2016年12月末発行)
消費者庁元課長補佐ジャパンライフ天下り報道
国会で追及開始
2017年3月16日 2回目の業務停止命令
訪問販売・連鎖販売取引・預託取引9カ月
3月31日 ジャパンライフ 行政処分内容と真逆の内容の文書を顧客に送付
5月13日 ジャパンライフ 売上3月過去最高収益知らせる文書顧客に送付
5月29日 ジャパンライフ 監査を受けてもらえなかった旨の文書を顧客に送付
7月24日 徳島県庁に「消費者行政新未来創造オフィス」開設
8月28日 ジャパンライフ2015年度末で266億円の赤字 顧客に送付
9月11日 ジャパンライフ2016年度末で339億円の赤字 顧客に送付
9月27日 ジャパンライフ被害対策中部弁護団結成
11月17日 3回目の業務停止命令
業務提供誘引販売1年 2回目以降の 新規契約2000人、120億円
12月1日
改正特商法施行
連鎖販売取引・預託取引1年
12月20日 中部弁護団が愛知県警に告発状提出
12月26日 ジャパンライフ銀行取引停止処分を受け事実上倒産
2018年 1月6日から ジャパンライフ全国で説明会 「会社は倒産していない」
1月20日 全国ジャパンライフ被害弁護団連絡会発足
2月9日 東京地裁に全国弁護団が被害者による破産申し立て
3月1日 東京地裁が破産手続き開始を決定
2019年 4月25日 山口隆祥に対する特商法違反での強制捜査
9月4日 山口隆祥に破産手続き開始決定
10月9日 山口ひろみに破産手続き開始決定
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