レンタルしているはずの商品がなかったなどとして1年の業務停止命令を受けているジャパンライフ社への相談について、消費者庁取引対策課が7月13日付で全国の消費生活センターに対し、まず、相談者にジャパンライフ社への自主交渉を助言するよう求める通知を出していたことが分かった。ジャパンライフ社は顧客に対し5月29日付で、公認会計士の監査意見が「意見不表明」だったとする監査結果を送付しているが、この文書についても「非公表」であることを強調し、読むように伝えるよう助言するにとどめている。契約者の平均年齢が75歳とほとんどが高齢者で、家族も契約内容を十分把握しているわけではない。事業者に直接連絡した場合、解約を求めても契約を継続しても大丈夫だと言いくるめられる可能性がある。解約の原資が確保されているかどうか危うい監査結果報告が出ている中で、被害を埋もれさせる自主交渉になぜ取引対策課が誘導するのか。あきれ果てる対応だが、佐藤朋哉・取引対策課長は「契約当事者が相手方に意思表示をするのは当然」とコメントした。
ジャパンライフの監査報告「意見不表明」
「当事者の意思表示当然」取引対策課長が見解
問題の通知は7月13日付で、都道府県・政令指定都市、各市町村の消費生活センター宛てに消費者庁取引対策課名で出されていた。
「返金や解約を検討されている方については、まず、ジャパンライフ株式会社の『お客様相談室』に直接問い合わせをいただくようアドバイス」することを求め、同社のお客様相談室の電話番号を掲載。併せて、「同社との契約や返金についての相談があれば、引き続き適宜助言・あっせんいただけるようお願いします」としている。
「とんでもない話。自主交渉を勧めるのは問題」「消費生活センターの役割を分かっていない」と、相談現場に詳しい弁護士らはこう指摘する。「巧みな勧誘で高額契約させられた消費者は、いともたやすく丸め込まれる。あまりにも酷い対応」と憤りを隠さない。
原則は当事者間交渉とはいえ、相談者が高齢である場合や、対象事業者が預託の現物がなく、負債額の記載が虚偽であると違反を認定した業務停止命令中の事業者では、考えられないという。「返金の見通しが明らかではない会計監査結果が出ているのであれば、消費者庁が積極的に介入し、返金計画を見届ける、あるいは、法執行官庁として、刑事告発をしてしかるべき」などの意見が出ている。
ベテランの相談員らからも「自主交渉はあくまで原則。このようなケースは、契約書を入手して契約の実態をよく検討し、センターがあっせんに入る」「特に破たんが懸念されるケースは、クーリング・オフや取り消しの主張を書面通知しておくことが重要」「相談者に応じた、具体的処理方法を時期に合わせて情報提供すべき」などの声が聞かれた。
センターがあっせんに入らなければ、被害の実態は明らかにならず、相談内容も「問い合わせ」や「契約内容の確認」にとどまる可能性もある。被害実態が十分に把握できないことにもつながる。
ジャパ社からの会計監査報告
7月13日付で「読むよう」助言
問題の文書では、消費者庁の命令に基づいて、ジャパンライフ社から預託者に監査結果が通知されているとし、「読むようお答えいただけますと幸甚」とも記載されている。
監査結果には「平成27年度の計算書類について、適切な監査証拠を提出できず、『意見不表明』との監査意見であった。つまり、適正な計算書類であるとの意見はもらえなかった」「平成26年度の計算書類について、監査の前提条件を満たしていないため、監査を受託してもらえなかった」と記載されていると報告。「上記通知内容は、一般には非公表ですので、お取り扱いにはご注意ください」と、非公表であることが強調されている。
『意見不表明』
ジャパ社の通知5月29日付
取引対策課が7月13日付で読むよう助言を求めたジャパンライフ社の通知は、実は5月29日付で「独立監査人による監査結果等のお知らせ」として、顧客に発送された。本紙は6月初旬に入手している。なぜ、通知から1カ月以上も経過した段階で、センターにこのような助言をしたのか、まず、対応の遅さに疑問がある。
「弊社が公認会計士に監査を依頼したところ、公認会計士の監査意見は、意見不表明というものでした。つまり、弊社の計算書類は適正であるとの意見はいただけませんでした」とし、「純利益が約53億円増加したことになっているが、適切な監査証拠を弊社から入手できなかった」などと記載されている。
「読んで分るなら、
だまされない」
「読んでわかるようなら、だまされていない」。この問題に詳しい弁護士から、こんな指摘も出ている。なぜ、この程度の内容しか、各センターに伝えないのかも疑問がある。
日本公認会計士協会の「分かりやすい会計・監査用語解説集」によると、「監査人が『意見不表明』の報告書を提出するのは、財務諸表に対する意見表明ができないほど、会計記録が不十分であったり、監査証拠が入手困難である場合に限られる」「この監査報告がなされると、その決算書は『信用できない』ということになり、上場会社は上場廃止基準に抵触することになる」とある。
消費者庁取引対策課は、7月26日付で13日の文章を補正して上記の説明は追加しているが、あくまでまず自主交渉に誘導する点は変更されていない。
「信用できない監査内容」
消費者に分かりやすく説明を
ジャパンライフ社は、消費者庁の命令に反し3月31日付で、消費者庁が認定した違反事実と真逆の内容を記載した文書を、顧客に送付している。ジャパンライフ社は「国内3工場、海外2工場で生産し、大量の在庫を保有している」「創業以来42年間、決済報告書で問題を指摘されたことはない」などと主張していた。
さらに5月13日付では、3月には初の月間売上30億円を達成したという文書も送付されている。2月の売上は29億2122万円、3月は30億558万円、4月には35億5849万円の実績が上がったとしている。
高額な契約を続けている顧客は、どの文章を信じていいのか分からない。
まずは、顧客に5月29日付で発送された文書の『意見不表明』が「上場企業であれば、上場を廃止されるほど信用できない会計監査内容であること」を、分かりやすく消費者に伝えることが求められる。
消費者庁は、2回目の行政処分で負債額の虚偽記載を認定しながら、ジャパ社に会計監査を受けて報告することを命令した。消費者庁自らが粉飾決済で違反認定をしていればこのようなことは起きていない。
情報公開請求にも
2か月でゼロ回答
平成27年度分の意見不表明や、平成26年度分は監査を受託してもらえなかったという報告では、どのような粉飾決済があったのかは分からない。
業務停止命令を出した消費者庁が、何が問題なのか分かりやすく説明し、悪質性を伝える必要があるが、消費者に最も必要な情報を問う質問に、消費者庁は一切回答しない。
レンタルユーザーの数、レンタルオーナーの数が見合っているのか。新たな被害でレンタルオーナーへの支払いをしている自転車操業ではないのか。極めて脆弱な経営状態ではないのか。虚偽記載を認定した負債額約288億円がどのくらいの大きさでどのような意味を持つのか。
本紙はこれらを明らかにすべく、4月25日付で消費者庁に情報開示請求を行ったが、請求から2カ月後に開示された2つの文章からは、何一つ新たに明らかになる内容はなかった。8カ月をかけ12月25日までに順次開示するとしているが、消費者・生活者の視点に立つ行政へと、パラダイム(価値規範)の転換を図るために創設された消費者庁にふさわしい情報開示を求める。
業務提供誘引でさらに勧誘
自主交渉に誘導している場合なのか
全国の消費生活センターなどに寄せられる同社への相談件数は、2016年度は169件、2017年度は93件(PIO-NET、7月末日登録分)。契約者の平均年齢は2016年度は75.2歳、2017年度は76.1歳と、ほとんどが高齢者だ。相談者の平均契約金額は、2016年度は2250万円、2017年度は2714万円と高額で、最高契約額は5億円。取材で2億円を超える契約者が24人いることも判明している。
ジャパンライフ社は「レンタル料」を「月額活動費」に変更。預託取引ではなく、業務提供誘引取引として、これまで行われていたと同様の契約を続けている。すでに、国際大会と称し、業務停止命令中に、業務停止命令を受けた訪販による勧誘を行っていたことも報道してきた。
消費者庁は、同社への相談を自主交渉に誘導するよう助言している場合なのか。消費者を守ろうという意識が欠落している。
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